６０年前の今ごろ、米占領軍は日本のどこかに危険な兵器が隠されていないか調べ回っていた。東京・駒込にあった理化学研究所も疑われた施設の一つだ。

    60年前的这个时候，美国占领军巡回调查了日本是否在哪藏有危险武器，当时位于东京·驹进的物理化学研究所是怀疑对象之一。

　１１月下旬、米将兵らが現れた。「原子爆弾を作る機械だ」と決めつけ、粒子加速機サイクロトロンを壊しにかかる。重さ２００トン、同位体や原子核など先端研究に欠かせない装置だ。

       11月下旬，美军闯入研究所，他们把粒子加速机回旋加速器断定为“制作原子弹的机械”，将其破坏。这台机械重200吨，是进行同位体和原子核等先端科学研究必不可缺的装置。

　「何かの間違い。占領軍から使用許可を得ている」。開発に１０年を費やした仁科芳雄博士がいくら訴えても、将兵たちは耳を貸さない。解体して東京湾に沈めた。無念のあまり、博士は吐血して病に伏した。

       “你们肯定弄错了，我们有占领军的使用许可证。”整整10年致力于开发这台机械的仁科芳雄博士拼命地解释，但美军将士们不肯理会他。美军将机械拆解后弃于东京湾。绝望之余，博士吐血病倒。

　「核物理の分野では高水準にあった日本が、サイクロの破壊で１０年は後れをとった」。東大名誉教授で仁科記念財団理事長の山崎敏光さんは語る。海中投棄が報じられると、米科学界からも「恥ずべき蛮行だ」と非難の声がわいた。

       东京大学名誉教授及仁科记念财团理事长山崎敏光先生说到，“日本原在核物理领域上保持着高水准，而回旋加速器使其发展推迟了整整10年。”海中投弃被报道出来后，美国科学界也纷纷指责这是“可耻的野蛮行径”。

　仁科博士の業績を伝える特別展が昨日、東京の国立科学博物館で始まった。海に消えた巨大装置の設計図のほか、後進たちと交わした手紙も公開された。戦前、中間子理論を米学者に酷評された湯川秀樹博士は「心外だ」「心細い」と書き送った。慰める仁科博士の復信が温かい。「せっかくの新理論だ、何とか仕上げよう」と。

しん‐がい〔‐グワイ〕【心外】：[名・形動]思いもよらないこと。思いがけないこと。思いがけない仕打ちや予想に反した悪い結果などに対して、腹立たしく感じたり残念に思ったりすること。また、そのさま。「疑われるとは―だ」「―な結果に終わる」

       昨天，宣传仁科博士业绩的特别展览在东京国立科学博物馆揭幕。除了投弃在海中的巨大装置的设计图之外，还公开展示了博士与后辈通往的书信。战前，汤川秀树博士曾因介子理论还受到美国学者严厉指责，在给仁科博士的信中说到“意想之外”“心中没底”等等。仁科博士亲切温和地回信安慰他。“好不容易得出的新理论，努力完成它吧。”

　書簡を整理した中根良平・元理研副理事長は筆まめぶりに驚いた。多い年には湯川博士が関西から３日に１通を出し、仁科博士も東京からこまめに返した。心通う便りの行き来がなかったら、湯川理論は完成せず、復興日本に希望を与えた初のノーベル賞もなかったかもしれないと考えた。

ふで‐まめ【筆忠＝実】：名・形動]おっくうがらずに、手紙や文章をまめに書くこと。また、そのさまや、そのような人。「―に連絡する」筆不精。

こ‐まめ【小忠＝実】：[形動][ナリ]労を惜しまないでよく働くさま。まめまめしいさま。「―な人」「―に世話を焼く」「両親に―に手紙を書く」

       原物理化学研究所副理事长中根良平在整理书简时，为其通信之勤而相当吃惊。多年来，汤川博士平均每三天从关西寄去一封信，而仁科博士也在东京及时回信。我想，如果没有这饱怀心意的书信来往，或许汤川理论也难以完成，更难以获得这寄予复兴中的日本以希望的第一枚诺贝尔奖了。

资料：

ゆかわ‐ひでき〔ゆかは‐〕【湯川秀樹】

[(一九〇七～一九八一)]理論物理学者。東京の生まれ。小川琢治の三男。京大教授。中間子の存在を予言し、坂田昌一・武谷三男らと協力して中間子理論を展開。その後、非局所場の理論、素粒子の統一理論へと発展させた。パグウォッシュ会議参加など、平和運動にも活躍。昭和二四年（一九四九）日本人最初のノーベル物理学賞を受賞。文化勲章受章。著「素粒子」「現代科学と人間」など。

にしな‐よしお〔‐よしを〕【仁科芳雄】

[(一八九〇～一九五一)]物理学者。岡山の生まれ。長岡半太郎、ラザフォード、ボーアに師事。理化学研究所の主任研究員から所長となり、量子力学・原子核・宇宙線の研究に業績をあげ、また、湯川秀樹・朝永振一郎・坂田昌一ら後進を指導。昭和一二年（一九三七）および一九年、日本最初のサイクロトロンを建設。文化勲章受章。