魔幻小说:《伯爵与妖精》卷一 第一章1.1
简介:莉迪雅是位可以看见妖精并与他们沟通的女子,她为了与父亲见面,搭上了开往伦敦的船,却被突然出现的年轻男子绑架。自称为爱德格的男子宣称自己是一名伯爵,并委托莉迪雅协助找寻可以证明自己身分的宝剑,尽管他的形迹可疑,莉迪雅还是与他签订了契约。另一方面,街头巷尾流传着一件极为凶恶的强盗事件,犯人的特征与爱德格非常相似,事情究竟是......
1.1 その男、紳士か悪党《ワル》か
「さて、ミスター?ゴッサム、いろいろと世話になったね。礼がしたいのだけど
?」
そう言って痩身《そうしん》の若者は、気取った口ひげの男にピストルを突
きつけたまま、妖艶《ようえん》に微笑《ほほえ》んだ。
「……やめろ、か、金ならいくらでもやる……」
太った身体を震《ふる》わせ、縛られた男はかすれた声を出した。
「それはご親切に。ではついでにもうひとつ、幻のスターサファイアといわれ
る、〝メロウの星?をいただきたい」
「あ、あれは……、本当に幻で、伝説上の宝石で、存在しない……」
口ごもるゴッサムから、いったんピストルを離し、彼はゆっくりと部屋の中
を見まわした。
「せっかくこの、あなたにふさわしい舞台を、そして特別席を用意したという
のにね。僕をよろこばせてくれる気はないと」
ゴッサムは、白い大きな椅子《いす》に縛りつけられていた。ここは精神科
医である彼の研究室だ。棚にはずらりと、ホルマリン漬けにされた脳の標本が
並ぶ。
椅子に縛られた被験者を、冷酷《れいこく》な目で見つめるのはこれまでゴ
ッサムの側だったが、今は立場が逆転していた。
被験者であるはずの若者が、ピストルを手に、並べてあったメスをもてあそ
ぶ。
乱れてはいるが鮮やかなほどの金髪、くたびれた古着をまとっていても、ゆ
っくりと部屋の中を歩きながら意味ありげに薬瓶《くすりびん》をするりと撫
《な》でる指先や、振り返りながら静かに威圧する視線や、動作の隅々まで優
雅に見える青年の、隠された素性《すじょう》をゴッサムは知らない。
だがおそらく、ただのごろつきではなかったのだ。今ゴッサムの目の前にい
るのは、とんでもなく危険な本性をあらわにした獣だった。
それは、獲物がどのくらい弱っているかを確認するように、ゴッサムのまわ
りを一周する。
そして再びピストルを持ちあげた。
人を一瞬で魅了する完璧《かんぺき》な微笑みに、絶望的な恐怖心をゴッサ
ムはいだく。
なまりのない上流英語《キングスイングリッシュ》で、死神のごとく青年は
告げる。
「ミスター、そろそろ僕はおいとましなければならない。〝メロウの星?が存在
しないというのは残念だ。あなたにも、永遠に目にする機会はないということ
かな」
引き金に指がかかる。
「ま、待ってくれ」
すべてを吐き出してしまうしかないのは、死の恐怖からではなかった。死ん
でもなお、この男の内にひそんだ悪魔が、とことん彼をさいなむために追って
くるに違いない、そんな不安からだった。
「……宝石の存在が、幻かそうでないかは、妖精博士《フェアリードクター》と
呼ばれる者にしかわからないようなのだ。なにしろほら、あれは妖精が謎の鍵
《かぎ》を握っているだけに、妖精の専門家ならば見つけだせるかもしれない
と」
「妖精の専門家? 胡散臭《うさんくさ》い霊媒師《れいばいし》ならロンド
ンにいくらでもいるが?」
「……フェアリードクターという仕事は、今ではすたれかけている。スコットラ
ンドやウェールズの僻地《へきち》にはかろうじて現存しているというが、高
齢者で半分|棺桶《かんおけ》に足を突っ込んでいるような連中ばかりだ。そ
れもそうだろう、今どき妖精など、信じているのは子供だけだ」
「しかしその、子供だましな妖精博士の知恵がいると」
「ああそうだ。メロウのことはもちろん、ピクシーだのシルキーだの、本当に
[#「本当に」に傍点]どういう存在なのか、誰にわかるという? だが、妖
精のことなら何でも知っているというのがフェアリードクターだ」
「で、この宝探しの適任者は? 老人ばかりだと言うが、あなたのことだ。ぬ
かりなく、使えそうな人物を見つけたんだろう? そのフェアリードクターと
やらを」
どうせ見抜かれていると、ゴッサムは観念する。
「……ああ、ああ見つけた。スコットランドのエジンバラ近郊の町に……」
青年は、まだ見ぬ恋人の消息でも聞くように、やわらかな笑みを浮かべなが
ら耳を傾けていた。
ゆっくりと、ピストルをおろす。ゴッサムは安堵《あんど》の息をつく。
が、次の瞬間、薄暗い実験室に、無情な銃声が響きわたった。
妖精に関するご相談、よろず承ります。
妖精博士《フェアリードクター》、リディア?カールトン
家の前に立てられた手書きの看板は、今日も通りすがりの人々の失笑を買っ
ていた。
「母さん、妖精って本当にいるの?」
「おとぎ話よ。いるわけないじゃない」
「いいえ、いるわ」
垣根《かきね》から身を乗り出し、リディアは通りかかった母子の会話に口
をはさんだ。
「妖精はね、見えなくてもちゃんといるの。寝る前に、コップに入れたミルク
を窓辺に置いておくと、ブラウニーがやって来るわよ」
にっこりと、子供に笑いかける。しかし、立ち止まりかけた子供の手を、母
親が強く引いた。リディアをキッとにらみつけ、足早に立ち去る。
あのおねえさんはおかしいのよ、とか何とか、言い聞かせているのだろうと
思いながら、リディアは頬杖をつきつつ母子の背中を見送った。
「リディア、いくら言ったって無駄《むだ》さ。妖精が見えない奴は一生見え
ない。信じない奴は、妖精に蹴られたって気のせいだと思う。まあのんびりや
れよ」
庭木の枝に寝そべっている、長毛の灰色猫がそう言った。
言葉を話し、二本足で歩くその猫は、リディアの友人だ。首にネクタイを結
び、毛並みの乱れを常に気にするほど身なりにうるさいが、よいしょと身体を
起こしへそのあたりをかく姿は、オヤジくさいとリディアは思う。
「ねえニコ、どうにかして妖精博士《フェアリードクター》の仕事を理解して
もらう方法はないものかしら」
「そうは言ってもなあ。フェアリードクターがあちこちにいて、妖精がらみの
トラブルが日常的に起こって、人々に知恵を求められた時代は終わったのさ。
今はもう、十九世紀もなかばだぜ」
「でも、妖精はいなくなったわけじゃないわ。人のそばにいて、いいことも悪
いこともするのに、誰もが無視してるなんておかしいと思わない? 見えない
ってだけで、どうしていないことになってしまうの?」
力を入れて語ったとき、垣根の外からおずおずとした声がかかった。
「あの……、郵便ですけど……」
郵便配達の若者は、ひどく警戒した様子で、垣根越しに手紙を差し出した。
自在に姿を消せる妖精猫は、とっくに消え失せていた。声を張り上げてひと
りごとを言っていたように見えただろうか。
「あ、ひとりごとじゃないのよ。今そこに猫がいたの」
リディアは取り繕《つくろ》おうとしたが、郵便屋は引きつった愛想《あい
そ》笑いを返す。
「いえ、本物の猫じゃなくて、ちゃんと話せる猫……」
説明しようとするものの、どう言っても頭がおかしいと思われそうだ。その
うえ彼女は、郵便屋のバッグにもぐり込もうとする小妖精《ブラウニー》を見
つけ、思わず声をあげていた。
「こらっ、何してるの! 手紙にいたずらはやめなさい!」
わらわらとブラウニーが逃げ出せば、もともと郵便物でいっぱいになってい
たバッグから、手紙がいくつかこぼれる。
「……ごめんなさい。ブラウニーってばほんと、いたずら好きで」
拾い集めた手紙を差し出す。硬直しながら受け取った郵便屋は、逃げるよう
にリディアの前から立ち去った。
「またやっちゃったわ」
はあ、とため息をつく。
どのみちすでに、リディアはカールトン家の変わり者娘として有名で、人間
の友達はいない。妖精が見えて、彼らと話ができることを隠そうとしなかった
ためだ。
開き直って妖精博士《フェアリードクター》を名乗り、自分の能力を役立て
たいと考えているが、今のところ彼女の熱意は空回りしている。
「何だよ、新入りの郵便配達員に退《ひ》かれたくらいで落ちこむなよ」
家の中へ入っていくと、今度はニコは、ソファに腰かけ新聞を広げていた。
「おまえのせいよ」
むっとしながらリディアは返す。
郵便屋の青年に興味があるわけではないが、リディアくらいの少女たちと彼
が、楽しそうに談笑しているところはよく見かけていた。変化の少ない田舎町
に、新しくやってきた若い男性は、それだけで少女たちに注目されている。
リディアがほんの少し期待したのは、彼女の噂《うわさ》を知らない人なら
、ふつうに話をしてくれるかもしれないということだったが、結局早々に、変
わり者だと印象づけてしまったようだ。
人から理解されないことを、リディアはそれほど淋しいと思わずに来た。幼
い頃から妖精たちと遊んだりケンカしたりと忙しかったからだ。けれど彼女も
十七歳、年頃の少女だ。世の男性にことごとく避けられてしまうのは、少々悩
むべき事態だった。
「ふーん、お尋《たず》ね者だってよ」
ニコはさっと話題を変えた。
ソファで足、いや後ろ足を組み、前足で新聞を広げている猫の姿を、町の人
たちに見せてやりたいと思う。そうすれば、世の中は未知の存在がまだまだい
ると、気づいてくれるのではないか。
「ロンドンの精神科医、ゴッサム氏宅を襲《おそ》った強盗犯、主人に重傷を
負わせた上、大金を奪って逃走中」
「まあ、ロンドンの事件がこんな田舎町の新聞にまで載ってるの?」
「逃走してるからだろ。それに、被害者の息子が、報奨金《ほうしょうきん》
を出して犯人を捜してる。アメリカで百人は殺してる連続強盗犯に似てるって
。二十代前半、金髪に……」
凶悪そうな似顔絵も載っていたが、それよりもリディアは、たった今届いた
葉書に気を取られた。
「ちょっとニコ、これ父さまからの葉書よ。ロンドンへ来ないかって言ってる
わ。復活祭《イースター》を一緒に過ごそうって」
「めずらしい。クリスマス休暇《きゅうか》だってなかったのにな」
リディアの、唯一の家族である父は、博物学の教授だ。現在はロンドン大学
で教えている。
自然界に存在するあらゆるものの種類や性質を調べ、分類するというのが博
物学だが、研究に熱中するあまり、休暇があれば収集や観察に精を出し、どこ
へでも出かけていく父からの、久しぶりの手紙だった。
「行くのか? ロンドンは物騒《ぶっそう》だぜ」
「そうね。でもどうせ、大物強盗に会ったって、あたしには大金なんてないも
の」
リディアの母は、妖精博士《フェアリードクター》だった。父と結婚するま
では、北部の島に住んでいて、村人たちに持ちかけられる妖精に関する相談に
乗りながら、中世から幾世紀《いくせいき》を経ても、ほとんど変わらない暮
らしをしていたという。
しかしそれも、二十年以上も前の話。
今でも、大英帝国に属しながらも辺境の島々では、独自の文化を保った生活
をしているというが、リディアは母の故郷へ行ったことはない。
余所者《よそもの》である父と結婚することで、母は故郷を捨てたのだとい
う。リディアが行っても、きっと歓迎されないだろう。
幼い頃に亡くなった母のことは、わずかしか覚えていないが、母に語り聞か
された妖精の話は不思議とよく覚えている。妖精の種類や習性、独自の決まり
ごと、つきあい方、リディアが母から受け取った遺産だ。
だから母のように、一人前のフェアリードクターになろうと心に決めた。妖
精が見えるということを、恥じたり隠したりしたくなかった。
変わり者だったって、べつにいいじゃない。
妖精が存在する限り、きっと、フェアリードクターを必要としてくれる人も
いるはずだから。
留守宅を家つきゴブリンにまかせ、リディアは父の元へ向かうべく、ニコと
ともに港へやって来たところだった。
家の前の看板には「しばらく休業します」と書いてきた。不都合に思う人は
今のところいないだろう。
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