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魔幻小说:《伯爵与妖精》卷一 第一章1.3

时间:2011-09-02 14:22:40  来源:可可日语  作者:ookami

 ドアマンがうやうやしく扉を開ける。慣れきったレディファーストの作法で促(うなが)されれば、結局リディアは扉の中へと進み入る。
「いいかい、リディア。今からきみは、僕を見せびらかす。そのつもりで」
 ずいぶん傲慢(ごうまん)なせりふだ。
 けれどそれは、口先だけではなかった。
 広いホールに、波のように音楽が漂う。シャンデリアと銀器と、貴婦人方の宝石のきらめきと。いくつものテーブルに、それぞれ談笑の花が咲く。
 そんな中で戸惑うリディアを、そつなくエスコートするエドガーの振る舞いは、どこから見ても申し分のない貴族だった。
 ぼろぼろの格好をしていたときは、一見貧弱にも思えた痩身(そうしん)は、仕立てのいいイヴニングコートをまとえば、労働とは縁がない優雅な身分にぴたりとはまる。
 真っ白な高襟(たかえり)にはカスケードに結んだタイ。ボタンホールは三色スミレ。
 鋭さとあまさをあわせ持つ顔立ちも、輝くばかりの金髪も、これほど貴族らしさをそなえた人はそういないだろうと思わせた。
 リディアが感じていることは、誰もがいだく感想だったに違いない。若き伯爵(はくしゃく)としてエドガーは、老侯爵(こうしゃく)夫妻はもちろん、同席した仰々(ぎょうぎょう)しい名前の面々を魅了した。
 そしてリディアはというと、友人と紹介されたものの、特に気を使うこともなく、黙って料理を堪能(たんのう)しているだけでよかった。
 エドガーの話によると、リディアはエジンバラの祖父母のもと、小学校で慈善(じぜん)活動に精を出す良家の子女で、これからリーズへ引っ越した幼友達の結婚式に出席するのだとか。若い娘の小旅行を厳格(げんかく)な父親はなかなか許可しなかったが、エドガーが往復付きそうと申し出て、ようやく許しが出たのだとか。
 よくもまあ、そんなに話を作るものだ。
「それにしても、伯爵はご友人思いなんですのね」
「美しい女友達の気を引くためなら、誰だって熱心になるってことだ。なあ伯爵?」
「わかっていただけますか?でも彼女は、いつまでたっても友達という言葉しか、僕に許してはくれないのですよ」\
 今日会ったばかりじゃないの。
 だが彼の、一途(いちず)な若者のふりは、孫を見るような視線を送る侯爵夫妻はもちろん、年長者たちにういういしい印象を与えることに成功している。
「あら、もったいないわ」
「船旅は日常を離れるいい機会ですもの、海の上でなら、どんな女性も少しくらいはあまい気持ちになるというもの。ねえ、お嬢さん?」
「そういうものかな、リディア」
 やさしげな声を向けられ、本当に彼に好意を寄せられているかのような、奇妙な気分におちいる。
「……さあ、どうかしら」
 悪い気はしないようでもあり、半分腹立たしくもあり、愛想なくリディアは答えるが、少し淋しげに彼は肩をすくめた。
 それが周囲のあたたかい同情を集める結果になるのも、計算済みだ。
「彼女の父上に信頼されている身としては、これ以上口説(くど)けないのがつらいところですよ」
 魅力的な伯爵に想いを寄せられながら、羽目をはずしたりしない身持ちの堅い娘。エドガーはリディアを、聖女のごとく演出してしまう。
 彼を見せびらかすとはこういうことか。
 隣にいるだけで、別のテーブルに着く令嬢たちからも、羨望(せんぼう)の視線が注がれる。
 でもそれは、リディアにとって意味はない。この場でだけは心地よくても、エドガーはもちろんリディアの友人ではなく、にせ物の宝石で飾り立てられているようなものだ。
 ならエドガーは何のために、にせ物の女友達で自分を飾るのだろう。ゲームを楽しんでいるかのようでもあるけれど、これがゲームなら、彼自身が盤上の駒(こま)に見えてしまう。盤をおりれば、何者でもない存在。
 伯爵だというのは、本当だろうか?

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