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魔幻小说:《伯爵与妖精》卷一 第一章1.4

时间:2011-09-02 14:38:23  来源:可可日语  作者:ookami

「……なんだか、一生分のほめ言葉を聞き尽くしたような気分だわ」
 デッキで風にあたりながら、リディアはつぶやいた。
 海は暗く、何も見えない。蒸気船の白い煙が、月を覆うようにもやもやと浮かんでいる。
「まったく、あの召使いども、おれの食事だと皿に入れたミルクなんぞ出しやがった。猫じゃあるまいし、皿からミルクを飲めるかっての」
 デッキチェアにふんぞり返り、灰色の猫にしか見えないニコはスコッチを舐(な)めた。つまみは魚のフライだ。
「なあリディア、明日の朝はパンケーキとベーコン、熱いミルクティを、ちゃんとした食器で出せと言っといてくれよ」\
「自分で言いなさいよ、しゃべれるんだから」
 チッと彼は舌打ちした。
「おれが言ったってな、たいていの人間は聞こえないふりをしやがる」
 そりゃあ、猫がしゃべったなんて、認めたくないだろうから。
「ところで、あいつの目的は何だったんだ?」
「まだ聞いてない。でも彼、青騎士伯爵の血筋を名乗っているの。そのことと関係があるんじゃないかしら」
「青騎士……っていうと、妖精国に領地を持ってるって伝説のあれか? なら伯爵(はくしゃく)さまは、あんたのこと、フェアリードクターとして協力を求めてるのかもしれないわけだ」
 つまり、リディアがフェアリードクターと名乗っていることを知っているのだろうか。
 けれど、酔いが醒(さ)めはじめた頭では、彼が妖精族の領主で理解者だなどとは思えない。もっと現実的な、策士(さくし)タイプに見える。
「でもまあ、かかわらない方がよさそうな気がするけどな。ハスクリーって奴と伯爵さまは、敵対してるわけだろ。どっちも色男ぶりやがって。たいしたことねーってのに」
「エドガーは、ハンサムだと思うわ」
「ありがとう」
 背後からのその声は、当人だった。深い考えもなく言ったことだが、本人に聞かれるとは思わなかったから、リディアは赤面する。
「いえあのっ、これはっ、一般論を客観的に述べただけよ! だからって、あなたに好感を持つかどうかは別問題ですから!」
「そうだね。きみをなかばむりやり、この船に乗せたわけだし、簡単に心を開いてもらえるとは思っていない。ところで、誰と話してたの?」
「え、……それは」
 ちらとニコの方を見る。さっさと彼は、猫らしくまるくなっている。
「おかしい? 猫を相手にひとりごとなんて」
 リディアはもう開き直ることにした。
「どうして? 動物と気持ちを通わせられるなんてすばらしいよ」
 ぜったいにそんなこと思ってないわ。と考えるものの、エドガーはわずかにもからかうような表情を見せなかった。
 ただ、ニコの乗っかっているデッキチェアのそばにある、スコッチのグラスに気づいたらしい。
「飲み直してたの? やっぱり気疲れした?」
 少し酔ったから風にあたると言って席を外してきたのに、飲み直すだなんて酒乱みたいじゃない。
 恥ずかしくて、そうして知らん顔しているニコに腹を立て、リディアはヤケになりながら言った。
「あ、あたしじゃなくて、ニコが飲んでたのよ。こいつってば、酒飲みだし行儀(ぎょうぎ)も態度も悪いし、そのくせネクタイの趣味と毛並みのツヤにはうるさい猫で、皿からミルクは飲めないとか、朝食はパンケーキとベーコンとミルクティがいいとか、無茶ばかり言うんだから!」
 さすがにエドガーは、不思議そうにリディアを見た。
 ああそう、やっぱりあたしは、わざわざ青騎士|卿(きょう)の子孫を名乗るこの人から見ても、単なる変わり者なのね。そう気づくとため息がもれる。
「おかしかったら笑っていいのよ。あたしに、何をさせたかったのか知らないけど、このとおりどうかしてるの。次の港でおろして……」
 思わず言葉につまったのは、急に彼がリディアに歩み寄ったからだった。
 アッシュモーヴの瞳が、おだやかに彼女を見おろす。ランタンの光だけでも、金色のまつげがくっきりと見える距離だ。
「な……何よ」
「妖精博士(フェアリードクター)は、普通の人に見えないものが見え、聞こえない声をも聞くという。なるほど、きみのその、淡い緑の瞳は、世界の謎さえ見透かしてしまいそうだ」
 やはり彼は、リディアがフェアリードクターだと知っていたようだった。
「大げさだわ。そんなにたいしたものじゃないし」
「いや、光を透かすと、虹彩(こうさい)が金の花みたいに輝くんだね。ますます神秘的だ」
 だからこそ魔女めいてみられる瞳を、他人にはじめてほめられ、リディアは正直うろたえた。
「……だいたいあなた、本当に青騎士卿の子孫なの? だったらあなたも、妖精が見えるのかしら? でなきゃ自分の領地へ行けないわよ」

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