魔幻小说:《伯爵与妖精》卷一第六章6.4
最悪の事態を。
何度もリディアは、エドガーに助けられた。
ハスクリーに追われたときも、彼はリディアを守って怪我をした。アーミンが彼女を道連れにしようとしたときも、そして今も、助けてくれた。
ずっと彼は、リディアを気遣って、やさしい言葉をかけてくれる。信用してはいけない人だとわかっていても、信用したくてついてきたのかもしれない。
だから、ただ死ぬのが怖いのではなく、エドガーに殺されるのが怖い。
そのとき彼が、どんなに残酷(ざんこく)で冷たい目をこちらに向けるのだろうと思うと震える。
変わり者と誰からも理解してもらえないリディアのことを、あるがままにそういう人だと受け入れてしまえるのがエドガーで、けっしてお世辞ではないほめ言葉ももらったような気がしている。
けれど彼に殺されるとしたら、リディアに向けられたやさしさも笑顔も思いやりも、ぜんぶうそだったことになる。
エドガーが強盗だと知ったとき、リディアは逃げようとしていた。そうとわかっていても彼は、力ずくで言いなりにしようとはしなかった。フェアリードクターとしての、リディアの能力を必要とし、ただ行かないでくれと懇願(こんがん)した。
それは、彼女の意志を尊重してくれたのではなかったのだろうか。
あのときからリディアは、彼に利用されているのではなく、対等な協力者になれたつもりだったけれど、そうではなかったのか。
エドガーに、すべてをくつがえされてしまうのが、なによりも怖い。
もしかしたら、そんなことは起こらないかもしれないと期待する気持ちにすがって、リディアは先へ進んできたのだ。
「もう少し休んだ方がいいね」
この言葉も、思いやりなんかでなく、じきに否定されてしまうのかもしれない。
エドガーの、灰紫(アッシュモーヴ)の瞳をリディアはじっと見つめた。
女の子に見つめられるなんて慣れきっているのだろう彼は、やわらかな笑みを返す。
「あたしのこと、殺すの?」
思わず口にしてしまった。
驚くでもなく、目をそらすでもなく、こちらを見つめたままの彼に、ぞくりとした。
「何を言い出すの」
「殺すつもりなら、やさしくなんかしないでよ。悪人の顔して、ナイフでもちらつかせて、怒鳴るとか殴(なぐ)るとかしたらどうなのよ」
「まだ混乱してる?」
「こんなの理不尽(りふじん)だわ。あなたのこと悪人だと思えないのに、殺されたら誰を恨(うら)めばいいの? あたしは、フェアリードクターとして誰かの役に立ちたかった。あなたは、強盗でも大うそつきでも、本当にあたしの能力を必要としてくれてるんだと思いたかったから、ここまで来たのに……」
「必要としてるよ、きみのことを」
「あたしの命もいるんでしょう?」
「どうしてそんなふうに思うんだ? きみを殺す理由なんかないじゃないか」
「あたしはあなたの仲間じゃない。あたしのことも父のことも、切り捨てても心は痛まないでしょう。それだって理由になるわ」
困り切ったようにエドガーは、リディアを覗(のぞ)き込みながら額(ひたい)の髪をかきあげた。
しばし考え込み、そうして思い切ったように、彼女の方に手をのばす。
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