魔幻小说:《伯爵与妖精》卷一第六章6.4
一瞬びくりと震えた彼女に戸惑い、けれどもういちど、そっと頭に触れる。
やさしい手つきで髪を撫(な)でるのは、小さな子供をなだめるかのようだった。
「ずっとそんなふうに、自分たちを守るためならなんでもしてきた。それで戦っているつもりだったけど、僕は情けない男で、逃げることに精一杯だっただけだ。怖いから、あえて後ろを見ないように、過去を忘れようとばかりしながら、あの男から逃げ切れていないことに気づけなかった。だから、……高い代償を……。もう、誰も傷つけたくない。きみのことは仲間のように思ってる。僕を信じてくれ」
まっすぐ目を見て語られれば、信じそうになる。
でもきっと、うそばっかりだ。
本気でうそのつける人だから。
本音を織り交ぜながら、重大なうそをつく。そうやって人の気持ちを動かしてしまう。相手に自分がどんなふうに見えるかわかっていて、心をつかむくらいお手のもの。
けれどリディアにできるのは、だまされることだけだ。だまされて裏切られるしか、どうにもできないのだと悟(さと)ったのは、エドガーのうそが、このうえなく真剣だったから。
彼の、目的を達するという決意はゆらぎようがない。
「お願い、父を助けたいの」
ならせめて、ひとつだけでも、リディアの真剣な願いを聞き入れてほしい。
「もちろんわかっているよ」
その言葉だけはうそではないようにと祈りながら、リディアは、身体(からだ)に力を入れて立ちあがった。
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