虚子之声
春雨や茶屋の傘休みなく
春雨绵绵 茶馆雨伞不得闲
春水に落つるが如くほとりせり
岸边芹菜湿 犹落春水里
美しき眉をひそめて朝寝かな
玉人贪早床 梦中蹙娥眉
春繭を掘り提げもちぬ高嶺の日
挖起春兰拎在手 高山顶上日头出
紅梅に薄紅梅の色重ね
或浓或淡红梅开 色彩斑斓
見るところ花は無けれどよき住居
放眼虽无花 居处也惬意
法外の朝寝もするやよくも降る
大雨滂沱降 早床贪恋久
君とわれ惜春の情なしとせず
惜春步履急 你我皆叹惋
雪よりも真白き春の猫二匹
二只春猫白 雪花逊色远
かかはりも無くて互に梅椿
山茶梅花各放红 两相呼应趣味浓
山荘に客たり四方の花にあり
山庄客人至 四围有鲜花
手を挙げて走る女や山桜
俏丽挥手跑动姿 好似山樱蓬勃开
蓼科に春の雲今動きおり
春云垂垂落 水草层层雾
紅梅や旅人我になつかしく
红梅料峭里 游子眷念中
牡丹散る盃をはみて悼まばや
衔盏饮清酒 欲悼牡丹落
梅雨晴れの波こまやかに門司ケ関
天晴梅雨霁 微澜门司关
夕闇の迷ひ来にけり吊忍
近晚夜色袭 瓦苇屋上暗
山川にひとり髪洗ふ神ぞ知る
独自洗发山川中 神灵造化心可知
箱庭の反り身の漁翁君に如かず
园艺渔翁身板硬 不及君影伟岸身
向日葵が好きで狂ひて死にし画家
因爱向日葵 画家狂而逝
何事も人に従ひ老涼し
老来性情闲 万事皆随人
滝の威に恐れて永くとどまらず
飞瀑势贯虹 恒久敬畏心
昨日今日客あり今日は牡丹切る
昨今赏客来 牡丹剪刃中
何某の院のあととや花菖蒲
感此花菖蒲 某氏旧庭园
時すぎて尚梅落とす音すなり
时令谢梅花 其音犹耳闻
四五歩して夏山の景変りけり
离开四五步 夏山又一景
夏草に延びてからまる牛の舌
耕牛伸长舌 萋萋夏草肥
蝙蝠にかなしき母の子守歌
母哼摇篮曲 蝙蝠堪悲悯
家二三ある山陰に滝ありと
言说飞瀑直下处 山阴有家二三户
温かき茶を含みつつ秋の雨
秋雨带凉滋 暖茶啜饮中
藤袴吾木香などにめでて
叶鞘地榆名 都为吾所好
簪の耳掻きほどの草の花
尖尖草丛花 状似簪耳勺
菊車よろけ傾き立ち直り
踉跄菊车倾 倏忽安步稳
萩を見る俳句生活五十年
眼望萩花白 俳涯五十载
悲しさはいつも酒気ある夜学の師
悲愁难遣常饮杯 夜校老师酒气重
子規墓参それより月の俳句会
自参子规墓 俳会改月会
去来忌やその為人拝みけり
缘因去来忌 相逢互揖首
歌膝を組み直しけり虫の宿
停歌重盘膝 旅店虫子多
背中には銀河かかりて窓に腰
腰倚窗口上 后背悬银河
ませの豆赤さ走りぬいざ摘まん
柴篱豆荚红 适时早采摘
停車場に夜寒の子守旅の我
夜泊停车场 寒吟摇篮曲
噂過ぐ時雨のすぐるごとくにも
谣言来去快 好比是骤雨
大根を水くしゃくしゃにして洗ふ
濯洗大萝卜 哗哗水声响
心ひまあれば柊花こぼす
心中有闲隙 柊树谢落花
一切の行蔵寒にある思ひ
触目怀感 一切行藏寒冷中
湖の寒さを知らぬ翁の忌
祭奠芭蕉翁 湖水寒意侵
冬空を見ず衆生を見大仏
大佛看众生 隆冬不入眼
初時雨しかと心にとめにけり
朔风吹落叶 停帚试观望
彼の道に黒きは雪の友ならん
彼道有黑影 似为寒雪友
山道に雪かかれある小家かな
积雪封山路 深坳有人家
大根を鷲づかみにし五六本
大把抓萝卜 冰凉五六根
干ざるの動いているは三十三才
枯黄竹笸箩 经年三十三
舟人は時雨見上げてやり過ごし
抬头见冷雨 船夫先放行
炬燵出ずもてなす心ありながら
暖炉难离手 虽有待客心
冬篭心を篭めて手紙書く
天寒不出户 潜心修书函
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