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【双语阅读】【白夜行】第六回

时间:2011-09-04 10:20:12  来源:可可日语  作者:Anna

 

 ここでこの娘を詰問するのは、あまり得策ではないかもしれないと笹垣は思った。これから何度も質問する機会があるような気がした。

 笹垣は再び室内を眺めた。特に目的があったわけではなかった。ところが冷蔵庫の横のゴミ箱を見た時、思わず目を見開いていた。あふれるほどに入ったゴミの一番上に、『ハーモニー』のマークが入った包み紙が載っていた。

 笹垣は雪穂を見た。すると彼女と目が合った。彼女はすぐに目をそらし、また本を読む姿勢に戻った。

 彼女も同じものを見ていたのだと笹垣は直感した。

 それから少しして、不意に少女が顔を上げた。本を閉じ、玄関のほうを見た。

 笹垣は耳をすませた。サンダルをひきずって歩くような足音が聞こえた。古賀も気づいたらしく、小さく口を開いた。

 足音はさらに近づき、この部屋の前で止まった。かちゃかちゃと金属音がする。鍵を取り出しているらしい。

 雪穂がドアのところまで出ていった。「鍵、開いてるよ」

「なんで鍵をかけとけへんの。危ないやないの」そういう声と共にドアが開いた。水色のブラウスを着た女が入ってきた。年齢は三十代半ばか。髪を後ろで束ねていた。

 西本文代はすぐに笹垣たちに気づいた。虚をつかれたような顔をし、娘と見知らぬ男たちを交互に見た。

「警察の人やて」少女がいった。

「警察の……」文代の顔に怯《おび》えの色が浮かんだ。

「大阪府警の笹垣といいます。こっちは古賀です」笹垣は立ち上がって挨拶した。古賀もそれに倣《なら》った。

 文代は明らかに動揺していた。顔は青ざめ、自分が何をすべきか思いつかない様子だった。紙袋を持ったまま、ドアも閉めずに立ち尽くしていた。

「ある事件のことで捜査をしてましてね、西本さんにお尋ねしたいことがあるので、お邪魔したというわけです。留守中に上がり込んで、すみません」

「ある事件て……」

「質屋のおじさんのことみたい」雪穂が横からいった。

 文代は一瞬息をのんだようだ。この二人の様子から、彼女たちがすでに桐原洋介の死について知っていること、その死について母子で何らかの会話を交わしていることを笹垣は確信した。

 古賀が立ち上がり、「どうぞおかけになってください」と文代に椅子を勧めた。文代は動揺の色を全く消せぬまま、笹垣の向かい側に座った。

 顔立ちの整った女だなと笹垣はまず思った。目尻が少し緩みかけているが、きちんと化粧すれば、間違いなく美人の部類に入るだろう。しかも冷たい感じの美人だ。雪穂は明らかに母親似といえた。

 中年以上の男なら、夢中になる者も少なくないだろうと笹垣は想像した。桐原洋介は五十二歳。下心を持っても不思議ではない。

「失礼ですけど、御主人は?」

「七年前に亡くなりました。工事現場で働いてたんですけど、事故で……」

「そうですか。それはお気の毒なことでしたなあ。今、お仕事はどちらのほうで?」

「今里《いまざと》のうどん屋で働いてます」

『菊や』という店だと彼女はいった。月曜から土曜の午前十一時から午後四時までが勤務時間だという。

「その店のうどん、おいしいですか」相手の気持ちを和ませるためだろう、古賀が笑顔で訊いた。だが文代は固い表情で、さあ、と一回首を捻っただけだった。

「ええと、桐原洋介さんがお亡くなりになられたことは御存じですね」笹垣は本題に入ることにした。

「はい」と彼女は小声で答えた。「びっくりしました」

 雪穂が母親の後ろを回り、六畳間に入った。そして先程までと同じように、押入にもたれて座った。その動きを目で追った後、笹垣は文代に視線を戻した。

「桐原さんは何らかの事件に巻き込まれた可能性が高いんですわ。それで、先週金曜日の昼間に自宅を出てからの足取りを調べているんですけど、こちらのお宅に寄ったのではないかという話が出てきましてね」

「いえ、あの、うちには……」

 いい淀む文代の言葉を遮《さえぎ》って、「質屋のおじさん、来はったんでしょ」と横から雪穂がいった。「『ハーモニー』のプリン、持ってきたのはあのおじさんと違うの?」

 文代の狼狽《ろうばい》が笹垣には手に取るようにわかった。彼女は唇を細かく動かした後、ようやく声を発した。

「あ、そうです。金曜日に桐原さん、いらっしゃいました」

「何時頃ですか」

「あれはたしか……」文代は笹垣の右横を見た。そこにはツードアタイプの冷蔵庫が置いてあり、上に小さな時計が載っていた。「五時ちょっと前……やったと思います。私が家に帰って、すぐでしたから」

「桐原さんは何の用でいらっしゃったんですか」

「特に何の用ということもなかったと思います。近くまで来たから寄った、というようなことをおっしゃってました。桐原さんは、うちが母子家庭で経済的に苦労していることをよく御存じで、時々立ち寄っては、いろいろと相談に乗ってくれはったんです」

「近くまで来たから? それはおかしいですな」笹垣はゴミ箱に入っている『ハーモニー』の包装紙を指した。「それは桐原さんが持ってきたものでしょう? 桐原さんは最初、それを布施の駅前商店街で買おうとしたんです。つまり布施駅の近くにいた時点で、こちらに来るつもりやったわけです。ここは布施からはずいぶんと離れてますよねえ。最初からこちらのお宅に来るつもりやった、と考えたほうが自然やと思うんですけど」

「そんなこといわれても、桐原さんがそうおっしゃったんやから仕方ないやないですか。近くまで来たから、ついでに寄ったって……」文代は俯いたままでいった。

「わかりました。そしたら、それはそうしておきましょ。桐原さんは、何時頃までこちらにおられました?」

「六時……ちょっと前にお帰りになったと思います」

「六時前。間違いないですか」

「たぶん間違いないです」

「すると桐原さんがここにいてはったのは、約一時間ということになりますね。どんな話をされましたか」

「どんなて……ただの世間話です」

「世間話にもいろいろとあるでしょ。天気の話とか、金の話とか」

「はあ、あの、戦争の話を……」

「戦争? 太平洋戦争の?」 

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