东野圭吾作品精读:《白夜行》第四章 第七回
《白夜行》将无望却坚守的凄凉爱情和执著而缜密的冷静推理完美结合,被众多“东饭”视作东野圭吾作品中的无冕之王,被称为东野笔下“最绝望的念想、最悲恸的守望”,出版之后引起巨大轰动,使东野圭吾成为天王级作家。2006年,小说被改编成同名电视连续剧,一举囊括第48届日剧学院奖四项大奖。“只希望能手牵手在太阳下散步”,这句象征《白夜行》故事内核的绝望念想,有如一个美丽的幌子,随着无数凌乱、压抑、悲凉的事件片段如纪录片一样一一还原,最后一丝温情也被完全抛弃,万千读者在一曲救赎罪恶的爱情之中悲切动容……
正晴が唐沢雪穂の生い立ちについて思い出したのは、礼子の話を聞いてから半月程が経った頃だ。中之島《なかのしま》にある府立図書館で、友人の調べものに付き合っている最中だった。友人というのはアイスホッケー部の同期で垣内《かきうち》といった。彼はあるレポートを書くために、過去の新聞記事を調べていた。
「ははは、そうやそうや、あの頃や。俺もよう買いに行かされたわ、トイレットペーパー」垣内は広げた縮刷版を読み、小さな声でいった。机の上には十二冊の縮刷版が載っていた。昭和四十八年七月から四十九年六月までの分で、一か月ごとに一冊に纏《まと》めてある。
正晴は横から覗き込んだ。垣内が読んでいたのは、四十八年十一月二日の記事だ。大阪の千里ニュータウンのスーパーマーケットで、トイレットペーパーの売場に約三百人の客が殺到したとある。
いわゆるオイルショックの話だ。垣内は電気エネルギー需要について調査しているので、この時期のこういう記事にも目を通す必要があるのだろう。
「東京でもあったのか? 買い占め騒ぎ」
「あったらしいよ。でも首都圏では、トイレットペーパーよりも洗剤じゃなかったかな。いとこが何度も買いに行かされたと言ってた」
「ふうん、たしかにここに、多摩のスーパーで四万円分の洗剤を買《こ》うた主婦がおるて書いてあるわ。まさか、おまえのところの親戚やないやろな」垣内がにやにやしていう。
馬鹿いうなよ、と正晴は笑って応えた。
自分はあの頃何をしていたかなと正晴は考えた。彼は当時高校一年だった。大阪に越してきてからまださほど間がなく、地域に慣れるのに苦労していた。
ふと雪穂は何年生だったのかなと考えた。頭の中で数えると、小学五年生ということになった。だが彼女の小学生姿というのは、あまりうまくイメージできなかった。
唐沢礼子の話を思い出したのは、その直後だ。
「事故で亡くなったんです。たしか雪穂が六年生になって、すぐの頃だったと思います。五月……だったかしら」
雪穂の実母に関する話だ。彼女が六年生ということは、昭和四十九年だ。
正晴は縮刷版の中から四十九年五月の分を選び、机の上で開いた。
『衆議院本会議 大気汚染防止法改正を可決』、『ウーマンリブを主張する女性ら優生保護法改正案に反対し衆院議員面会所で集会』といった出来事がこの月にはあったようだ。日本消費者連盟発足、東京都江東区にセブン-イレブン一号店がオープンといった記事も目についた。
正晴は社会面を見ていった。やがて一つの小さな記事を見つけた。『ガスコンロの火が消えて中毒死 大阪市生野区』という見出しがついている。内容は次のようなものだ。
『二二日午後五時ごろ、大阪市|生野《いくの》区大江西七丁目吉田ハイツ一〇三号室の西本文代さん(三六)が部屋で倒れているのをアパートの管理会社の社員らが見つけ、救急車を呼んだが、西本さんはすでに死んでいた。生野署の調べでは、発見当時部屋にはガスが充満しており、西本さんは中毒死を起こしたと見られている。ガス漏れの原因については調査中だが、ガスコンロにかけたみそ汁がふきこぼれており、それにより火が消えたことに西本さんが気づかなかった可能性があるという。』
これだ、と正晴は確信した。唐沢礼子から聞いた話とほぼ一致している。発見者に雪穂の名前が出てこないが、それは新聞社が配慮したのだろう。
「何を一所懸命に読んでるんや」垣内が横から覗き込んできた。
「いや、別に大したことじゃないんだけど」正晴は記事を指し、バイトで教えている生徒の身に起きた事件だということを話した。
垣内はさすがに驚いたようだ。「へえ、新聞に載るような事件に関係してるとは、すごいやないか」
「俺が関係してるわけじゃないよ」
「けど、その子供を教えてるわけやろ」
「それはそうだけどさ」
ふうん、と妙に感心したように鼻を鳴らしながら、垣内はもう一度記事を見た。
「生野区大江か。内藤の家の近所やな」
「へえ、内藤の? 本当かい」
「うん。たしかそうやった」
内藤というのはアイスホッケー部の後輩だ。正晴たちよりも一学年下である。
「じゃあ今度、内藤に訊いてみるかな」正晴はそういいながら、新聞記事に記載されている吉田ハイツの住所をメモした。
しかし彼がこのことで内藤に話をしたのは、それからさらに二週間後だった。四年生になれば、実質的にアイスホッケー部を引退しているため、めったに後輩たちと顔を合わせないのだ。正晴が部室を訪ねたのも、運動不足のせいで太りかけてきたため、少し身体を動かそうと思ったからだった。
内藤は小柄で痩せた男だ。スケーティングの技術は高いものを持っているが、体重が少ないためにコンタクトプレーをするにしても当たりが弱い。要するに、あまり強い選手ではなかった。だがよく気がつくし面倒見もいいので、幹部職として主務を担当していた。
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