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夏目漱石的文章

时间:2008-09-21 10:38:21  来源:本站原创  作者:maggie

  やがて書記の川村がどうかお着席をと云うから、柱があって靠(よ)りかかるのに都合のいい所へ坐(すわ)った。海屋の懸物の前に狸(たぬき)が羽織(はおり)、袴(はかま)で着席すると、左に赤シャツが同じく羽織袴で陣取(じんど)った。右の方は主人公だというのでうらなり先生、これも日本服で控(ひか)えている。おれは洋服だから、かしこまるのが窮屈(きゅうくつ)だったから、すぐ胡坐(あぐら)をかいた。隣(とな)りの体操(たいそう)教師は黒ずぼん[#「ずぼん」に傍点]で、ちゃんとかしこまっている。体操の教師だけにいやに修行が積んでいる。やがてお膳(ぜん)が出る。徳利(とくり)が並(なら)ぶ。幹事が立って、一言(いちごん)開会の辞を述べる。それから狸が立つ。赤シャツが起(た)つ。ことごとく送別の辞を述べたが、三人共申し合せたようにうらなり君の、良教師で好人物な事を吹聴(ふいちょう)して、今回去られるのはまことに残念である、学校としてのみならず、個人として大いに惜しむところであるが、ご一身上のご都合で、切に転任をご希望になったのだから致(いた)し方(かた)がないという意味を述べた。こんな嘘(うそ)をついて送別会を開いて、それでちっとも恥(はず)かしいとも思っていない。ことに赤シャツに至って三人のうちで一番うらなり君をほめた。この良友を失うのは実に自分にとって大なる不幸であるとまで云った。しかもそのいい方がいかにも、もっともらしくって、例のやさしい声を一層やさしくして、述べ立てるのだから、始めて聞いたものは、誰でもきっとだまされるに極(きま)ってる。マドンナも大方この手で引掛(ひっか)けたんだろう。赤シャツが送別の辞を述べ立てている最中、向側(むかいがわ)に坐っていた山嵐がおれの顔を見てちょっと稲光(いなびかり)をさした。おれは返電として、人指し指でべっかんこうをして見せた。

  赤シャツが座に復するのを待ちかねて、山嵐がぬっと立ち上がったから、おれは嬉(うれ)しかったので、思わず手をぱちぱちと拍(う)った。すると狸を始め一同がことごとくおれの方を見たには少々困った。山嵐は何を云うかと思うとただ今校長始めことに教頭は古賀君の転任を非常に残念がられたが、私は少々反対で古賀君が一日(いちじつ)も早く当地を去られるのを希望しております。延岡は僻遠(へきえん)の地で、当地に比べたら物質上の不便はあるだろう。が、聞くところによれば風俗のすこぶる淳朴(じゅんぼく)な所で、職員生徒ことごとく上代樸直(じょうだいぼくちょく)の気風を帯びているそうである。心にもないお世辞を振(ふ)り蒔(ま)いたり、美しい顔をして君子を陥(おとしい)れたりするハイカラ野郎は一人もないと信ずるからして、君のごとき温良篤厚(とっこう)の士は必ずその地方一般の歓迎(かんげい)を受けられるに相違(そうい)ない。吾輩(わがはい)は大いに古賀君のためにこの転任を祝するのである。終りに臨んで君が延岡に赴任(ふにん)されたら、その地の淑女(しゅくじょ)にして、君子の好逑(こうきゅう)となるべき資格あるものを択(えら)んで一日(いちじつ)も早く円満なる家庭をかたち作って、かの不貞無節なるお転婆(てんば)を事実の上において慚死(ざんし)せしめん事を希望します。えへんえへんと二つばかり大きな咳払(せきばら)いをして席に着いた。おれは今度も手を叩(たた)こうと思ったが、またみんながおれの面(かお)を見るといやだから、やめにしておいた。山嵐が坐ると今度はうらなり先生が起った。先生はご鄭寧(ていねい)に、自席から、座敷の端(はし)の末座まで行って、慇懃(いんぎん)に一同に挨拶(あいさつ)をした上、今般は一身上の都合で九州へ参る事になりましたについて、諸先生方が小生のためにこの盛大(せいだい)なる送別会をお開き下さったのは、まことに感銘(かんめい)の至りに堪(た)えぬ次第で――ことにただ今は校長、教頭その他諸君の送別の辞を頂戴(ちょうだい)して、大いに難有(ありがた)く服膺(ふくよう)する訳であります。私はこれから遠方へ参りますが、なにとぞ従前の通りお見捨てなくご愛顧(あいこ)のほどを願います。とへえつく張って席に戻(もど)った。うらなり君はどこまで人が好いんだか、ほとんど底が知れない。自分がこんなに馬鹿にされている校長や、教頭に恭(うやうや)しくお礼を云っている。それも義理一遍(いっぺん)の挨拶ならだが、あの様子や、あの言葉つきや、あの顔つきから云うと、心(しん)から感謝しているらしい。こんな聖人に真面目にお礼を云われたら、気の毒になって、赤面しそうなものだが狸も赤シャツも真面目に謹聴(きんちょう)しているばかりだ。

  挨拶が済んだら、あちらでもチュー、こちらでもチュー、という音がする。おれも真似をして汁(しる)を飲んでみたがまずいもんだ。口取(くちとり)に蒲鉾(かまぼこ)はついてるが、どす黒くて竹輪の出来損(できそこ)ないである。刺身(さしみ)も並んでるが、厚くって鮪(まぐろ)の切り身を生で食うと同じ事だ。それでも隣(とな)り近所の連中はむしゃむしゃ旨(うま)そうに食っている。大方江戸前の料理を食った事がないんだろう。

  そのうち燗徳利(かんどくり)が頻繁(ひんぱん)に往来し始めたら、四方が急に賑(にぎ)やかになった。野だ公は恭しく校長の前へ出て盃(さかずき)を頂いてる。いやな奴だ。うらなり君は順々に献酬(けんしゅう)をして、一巡周(いちじゅんめぐ)るつもりとみえる。はなはだご苦労である。うらなり君がおれの前へ来て、一つ頂戴致しましょうと袴のひだを正して申し込まれたから、おれも窮屈にズボンのままかしこまって、一盃(ぱい)差し上げた。せっかく参って、すぐお別れになるのは残念ですね。ご出立(しゅったつ)はいつです、是非浜までお見送りをしましょうと云ったら、うらなり君はいえご用多(おお)のところ決してそれには及(およ)びませんと答えた。うらなり君が何と云ったって、おれは学校を休んで送る気でいる。

  それから一時間ほどするうちに席上は大分乱れて来る。まあ一杯(ぱい)、おや僕が飲めと云うのに……などと呂律(ろれつ)の巡(まわ)りかねるのも一人二人(ひとりふたり)出来て来た。少々退屈(たいくつ)したから便所へ行って、昔風な庭を星明りにすかして眺(なが)めていると山嵐が来た。どうださっきの演説はうまかったろう。と大分得意である。大賛成だが一ヶ所気に入らないと抗議(こうぎ)を申し込んだら、どこが不賛成だと聞いた。

  「美しい顔をして人を陥れるようなハイカラ野郎は延岡に居(お)らないから……と君は云ったろう」

  「うん」

  「ハイカラ野郎だけでは不足だよ」

  「じゃ何と云うんだ」

  「ハイカラ野郎の、ペテン師の、イカサマ師の、猫被(ねこっかぶ)りの、香具師(やし)の、モモンガーの、岡っ引きの、わんわん鳴けば犬も同然な奴とでも云うがいい」

  「おれには、そう舌は廻らない。君は能弁だ。第一単語を大変たくさん知ってる。それで演舌(えんぜつ)が出来ないのは不思議だ」

  「なにこれは喧嘩(けんか)のときに使おうと思って、用心のために取っておく言葉さ。演舌となっちゃ、こうは出ない」

  「そうかな、しかしぺらぺら出るぜ。もう一遍やって見たまえ」

  「何遍でもやるさいいか。――ハイカラ野郎のペテン師の、イカサマ師の……」と云いかけていると、椽側(えんがわ)をどたばた云わして、二人ばかり、よろよろしながら馳(か)け出して来た。

  「両君そりゃひどい、――逃げるなんて、――僕が居るうちは決して逃(にが)さない、さあのみたまえ。――いかさま師?――面白い、いかさま面白い。――さあ飲みたまえ」

  とおれと山嵐をぐいぐい引っ張って行く。実はこの両人共便所に来たのだが、酔(よ)ってるもんだから、便所へはいるのを忘れて、おれ等を引っ張るのだろう。酔っ払いは目の中(あた)る所へ用事を拵えて、前の事はすぐ忘れてしまうんだろう。

  「さあ、諸君、いかさま師を引っ張って来た。さあ飲ましてくれたまえ。いかさま師をうんと云うほど、酔わしてくれたまえ。君逃げちゃいかん」

  と逃げもせぬ、おれを壁際(かべぎわ)へ圧(お)し付けた。諸方を見廻してみると、膳の上に満足な肴の乗っているのは一つもない。自分の分を奇麗(きれい)に食い尽(つく)して、五六間先へ遠征(えんせい)に出た奴もいる。校長はいつ帰ったか姿が見えない。

  ところへお座敷はこちら? と芸者が三四人はいって来た。おれも少し驚(おど)ろいたが、壁際へ圧し付けられているんだから、じっとしてただ見ていた。すると今まで床柱(とこばしら)へもたれて例の琥珀(こはく)のパイプを自慢(じまん)そうに啣(くわ)えていた、赤シャツが急に起(た)って、座敷を出にかかった。向(むこ)うからはいって来た芸者の一人が、行き違いながら、笑って挨拶をした。その一人は一番若くて一番奇麗な奴だ。遠くで聞(きこ)えなかったが、おや今晩はぐらい云ったらしい。赤シャツは知らん顔をして出て行ったぎり、顔を出さなかった。大方校長のあとを追懸(おいか)けて帰ったんだろう。

 

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