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【双语阅读】【白夜行】第十二回

时间:2011-09-11 10:26:59  来源:可可日语  作者:Anna

大江の質屋が殺された事件を知っているかと笹垣はまず訊いた。寺崎は前を向いたまま頷いた。
「新聞とかニュースで見ました。けど、あの事件と私と、どういう関係があるんですか」
「殺された桐原さんが最後に立ち寄ったのが、西本文代さんのお宅なんです。西本さんのことは、もちろん御存じですね」
 寺崎が唾《つば》を飲み込むのがわかった。どう答えるべきか思案している。
「西本さん……というと、そこのうどん屋で働いてる女の人でしょ。ええ、一応知ってますけど」
「その西本さんが事件に関係しているんやないかと我々は見ているんです」
「西本さんが? あほらしい」寺崎は口元だけで笑って見せた。
「ほう、あほらしいですか」
「ええ。あの人がそんな事件に関係してるわけがない」
「一応知っている、という程度のわりには、西本さんのことを庇《かば》いはりますね」
「別に庇うわけやないけど」
「吉田ハイツのそばで、白のライトバンがしばしば目撃されとるんです。それに乗っている男性もね。西本さんの部屋に、しょっちゅう出入りしてるらしい。寺崎さん、それはあなたですね」
 笹垣の言葉に、寺崎は明らかな狼狽を見せた。だが唇を舐めると、彼はいった。「仕事で伺ってるだけです」
「仕事?」
「化粧品とか洗剤で、頼まれたものを届けてるだけです。それだけのことです」
「寺崎さん、嘘はやめましょう。そんなこと、調べたらすぐにわかります。目撃者の話では、相当頻繁に彼女の部屋に行ってるそうやないですか。化粧品や洗剤を、そんなに届ける必要がどこにありますねん」
 寺崎は腕組みをし、瞼《まぶた》を閉じた。どうすべきか考えているのだろう。
「ねえ寺崎さん。ここで嘘をつくと、ずっと嘘をつかなあかんことになりますよ。我々はあなたのことを徹底的に見張り続けます。いつかあなたが西本文代さんに会うのを待つわけです。それに対してあなたはどうします? あの人とはもう一生会わんようにしますか? それはでけへんのやないですか。本当のことをいうてください。西本さんとは特別な関係にあるんでしょう?」
 それでも寺崎はしばらく黙り続けていた。笹垣はそれ以上は何もいわず、彼の出方を見ることにした。
 寺崎が吐息をつき、目を開けた。
「別にかめへんのと違いますか。私は独身やし、あの人も旦那さんが亡くなってるのやから」
「男女の関係にあると解釈していいんですな」
「真面目に付き合《お》うてます」寺崎の声が少し尖った。
「いつ頃からですか」
「そんなことまで話さんとあかんのですか」
「すみません。参考までに」笹垣は愛想笑いをして見せた。
「半年ほど前からです」ふてくされた顔で寺崎は答えた。
「きっかけは?」
「別にどうってことありません。店で顔を合わせるうちに親しなっただけです」
「西本さんからは、どの程度桐原さんのことをお聞きになってますか」
「よく行く質屋の社長やということだけです」
「西本さんの部屋に時々来るということはお聞きになってませんか」
「何回か来たということは聞きました」
「それを聞いた時、どんなふうに思いました」
 笹垣の質問に、寺崎は不愉快そうに眉を寄せた。「どういう意味ですか」
「桐原さんに何か下心があるというふうには思いませんでしたか」
「そんなこと考えても意味ないでしょう。第一、文代さんが相手にするわけがない」
「しかし、西本さんはいろいろと桐原さんの世話になってたみたいですよ。金銭的な援助も受けてたかもしれません。となると、強引に迫られた時、なかなか拒絶しにくいんやないかと思うんですが」
「そんな話、私は聞いたことがありません。おたくは一体何がいいたいんですか」
「ごくありきたりな想像を働かせてるわけです。付き合ってる女性の家に、頻繁に出入りしている男がいる。女性としては、世話になっている手前、軽くあしらえない。やがて男は増長して関係を迫ってくる。そうした状況を知ったら、恋人としてはかなり頭にくるんやないかと」
「それで私がかっとなって殺したというんですか。あほなことをいわんといてください。それほど単細胞やありません」寺崎の声が大きくなり、狭い車内で響いた。
「これは単なる想像です。お気に障ったのなら謝ります。ところで、今月十二日金曜日の午後六時から七時頃、どこにいてはりましたか」
「アリバイというやつですか」寺崎は目をつり上がらせた。
「まあそうです」笹垣は笑いかけた。人気刑事ドラマの影響で、アリバイという言葉は一般的になってしまった。
 寺崎は小さな手帳を取り出し、予定表の欄を開いた。
「十二日の夕方は豊中《とよなか》のほうです。お客さんに品物を届ける用事があったものですから」
「何時頃ですか」
「向こうの家に着いたのが六時ちょうどぐらいやったと思います」
 それが本当ならアリバイがあることになる。これもはずれか、と笹垣は思った。
「で、荷物を渡したわけですか」
「いや、それが、ちょっと行き違いがありまして」ここで突然寺崎の歯切れが悪くなった。「先方はお留守だったんです。それで、名刺を玄関ドアに差して帰ってきました」
「相手の人はあなたが来ることを知らなかったわけですか」
「私としては連絡したつもりだったんです。十二日に伺いますと電話でいったんです。でも、うまく伝わらなかったみたいです」
「すると、結局あなたは誰とも会わずに帰ってきたと、そういうことですね」
「そうですけど、名刺を置いてきました」
 笹垣は頷いた。頷きながら、そんなものは何とでもできると考えていた。

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