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【双语阅读】【白夜行】第十四回

时间:2011-09-14 11:35:32  来源:可可日语  作者:Anna

 

スポーツ新聞の一面を見て、田川敏夫は昨夜の試合を思い出し、嫌な気分もまた再現させてしまっていた。
 読売ジャイアンツが負けてしまったのは仕方がない。問題は、その試合内容だった。
 肝心な場面で、またしても長嶋が打てなかった。これまで常勝巨人軍を支えてきた四番打者が、見ているほうがイライラするような、中途半端なバッティングに終始してしまったのだ。ここぞというところでは必ず結果を出すのが長嶋茂雄であり、仮に打ち取られたとしても、ファンが納得するスイングを見せてくれるのがミスタージャイアンツとまで呼ばれている男の本領のはずだった。
 それが今シーズンは、どうもおかしい。
 いや、二、三年前から予兆はあった。しかし辛《つら》い現実を受け入れたくなくて、これまでは目をそむけてきたのだ。ミスターにかぎって、そんなことはあるまいと。だが今の状態を見ていると、子供の頃からの長嶋ファンである田川としても、痛感せざるをえない。誰だって年老いていくことを。そしてどんな名選手でもいずれはグラウンドから去っていかねばならないことを。
 今年は正念場かもなと、長嶋が凡退して顔をしかめている新聞写真を見ながら田川は思った。まだシーズンは始まったばかりだが、この分では夏前にも長嶋の引退説が囁《ささや》かれることになるだろう。巨人が優勝できないなんてことになったら、決定的かもしれない。そして今年はそっちのほうも厳しいのではないかと、田川は不吉な予感を立てていた。圧倒的な強さで昨年のV9まで突っ走ってきたが、そろそろチーム全体にガタがき始めているように思えてならない。そしてその象徴が長嶋なのだった。
 中日ドラゴンズが勝った記事を斜め読みして、彼は新聞を閉じた。壁の時計を見ると、午後四時を回っていた。今日はもう客はこないかもなと思った。給料日前だけに、家賃を払いに来る者がいるとも思えない。
 欠伸《あくび》を一つした時、アパートのチラシを貼ったガラス戸の向こうに、人影が立つのを彼は見た。が、それが大人のものでないことは、足元でわかった。人影は運動靴を履いていた。学校帰りの小学生が、暇つぶしにチラシを眺めているのだろうと田川は思った。
 ところがその数秒後、ガラス戸が開けられた。ブラウスの上にカーディガンを羽織った女の子が、おそるおそるといった感じで顔を覗かせた。大きくて、どこか高級な猫を連想させる目が印象的だった。小学校の高学年のようだ。
「なんだい?」と田川は訊いた。自分でも優しいと思える声だった。相手がこのあたりに多い、薄汚い格好で、妙にすれた顔つきをした子供であったなら、これとは比べものにならない無愛想な声が出るところだった。
「あの、西本ですけど」と彼女はいった。
「西本さん? どちらの?」
「吉田ハイツの西本です」
 はっきりとした口調だった。これもまた田川の耳には新鮮に聞こえた。彼の知っている子供は、頭と育ちの悪さを露呈するようなしゃべり方しかできない者ばかりだった。
「吉田ハイツ……ああ」田川は頷き、そばの棚からファイルを抜き取った。
 吉田ハイツには、八つの家族が入っている。西本家は一階の真ん中、一〇三号室を借りていた。家賃が二か月分溜まっていることを田川は確認した。そろそろ催促の電話をかけねばならないところではあった。
「すると、ええと」彼は目の前にいる女の子に目を戻した。「君は西本さんのところの娘さん?」
「はい」と彼女は顎を引いた。
 田川は吉田ハイツに入っている家族の構成表を見た。西本家の世帯主は西本文代で、同居人は娘の雪穂一人となっている。十年前に入居した時には文代の夫の秀夫がいたが、すぐに死亡したらしい。
「家賃を払いに来てくれたのかな」と田川は訊いてみた。
 西本雪穂はいったん目を伏せてから首を振った。そうだろうなと田川は思った。
「じゃあ、何の用だい?」
「部屋を開けてほしいんです」
「部屋?」
「鍵がないから、家の中に入れないんです。あたし、鍵を持ってないから」
「ああ」
 田川にも、ようやく彼女のいいたいことがのみ込めてきた。
「おかあさん、家に鍵をかけて出かけてしもたんか」
 雪穂は頷いた。上目遣いの表情に、小学生であることを忘れさせるほどの妖艶さが潜んでいて、田川は一瞬どきりとした。
「どこへ行ったのかはわからへんの?」
「わかりません。今日は出かけないっていってたのに……それであたしも、鍵を持たずに出てしもたんです」
「そうか」
 どうしようかなと田川は思い、時計を見た。店じまいには、まだ少し早い時刻だった。この店の主人である父親は、昨日から親戚の家に行っており、夜遅くにならないと帰らない。
 だからといって、合鍵を雪穂に渡すわけにはいかなかった。それを使う時には田川不動産の人間が立ち会うというのが、アパートの持ち主と取り決めたことであったからだ。
 おかあさんが帰るまで、もう少し待っていたらどうや――いつもなら、そういうところだった。だが心細そうに見つめてくる雪穂の姿を見ていると、そんなふうに突き放す台詞は吐きづらくなった。
「そしたら、開けたげるわ。一緒に行くから、ちょっと待ってて」彼は立ち上がると、賃貸住宅の合鍵が入っている金庫に近づいた。

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