东野圭吾作品精读:《白夜行》第四十八回
《白夜行》将无望却坚守的凄凉爱情和执著而缜密的冷静推理完美结合,被众多“东饭”视作东野圭吾作品中的无冕之王,被称为东野笔下“最绝望的念想、最悲恸的守望”,出版之后引起巨大轰动,使东野圭吾成为天王级作家。2006年,小说被改编成同名电视连续剧,一举囊括第48届日剧学院奖四项大奖。“只希望能手牵手在太阳下散步”,这句象征《白夜行》故事内核的绝望念想,有如一个美丽的幌子,随着无数凌乱、压抑、悲凉的事件片段如纪录片一样一一还原,最后一丝温情也被完全抛弃,万千读者在一曲救赎罪恶的爱情之中悲切动容……
桐原はジーンズのポケットから折り畳んだ紙を取り出し、友彦のほうに差し出した。
その紙にはサインペンで、次のように書いてあった。
『パーソナル・コンピュータ用ゲーム各種通信販売いたします 無限企画』
「無限企画?」
「俺らの会社の名前や。とりあえず、コンピュータゲームのプログラムを売る。カセットテープに保存して、通信販売するわけや」
「ゲームのプログラムか」友彦は小さく頷いた。「それは……売れるかもしれへんな」
「絶対に売れる。間違いない」桐原は断言した。
「でも、問題はソフトやと思うけど」
桐原は一台のパーソナル・コンピュータに近づくと、そのプリンターから出力されたばかりと思われる長い紙を、友彦の前に突き出した。「これが目玉商品や」
そこにはプログラムが印刷されていた。友彦には手に負えそうにないほど、複雑で長いプログラムだった。『サブマリン』という名前がつけられていた。
「このゲーム、どうしたんや。桐原が作ったのか」
「そんなことはどうでもええやろ。――ナミエ、このゲームの名前、考えたか」
「まあ一応ね。リョウが気に入るかどうかはわからないけど」
「聞かせてくれ」
「マリン・クラッシュ」ナミエは遠慮がちにいった。「……っていうのはどう?」
「マリン・クラッシュか」桐原は腕組みをして考えていたが、やがて頷いた。「オーケー、それで行こう」
彼が気に入った様子だからか、ナミエもほっとしたように微笑んだ。
桐原は腕時計を見て腰を上げた。
「ちょっと印刷屋に行ってくる」
「印刷屋? 何の用で?」
「商売をするには、いろいろと準備が必要なんや」スニーカーを履くと、桐原は部屋を出ていった。
友彦は和室で胡座をかき、先程のコンピュータプログラムを眺めた。が、すぐに顔を上げた。ナミエは机に向かい、電卓で何か計算を始めている。
「あいつは一体、どういう奴なのかなあ」彼女の横顔に話しかけた。
彼女は手を止めた。「どういう奴って?」
「あいつ、学校では全然目立てへんねんで。親しい奴もおらんみたいや。それやのに、裏でこんなことをしてる」
ナミエは彼のほうに向き直った。
「学校なんか、人生のほんの一部分にすぎないじゃない」
「そうかもしれんけど、あいつほどわけのわからん奴もおらへんよ」
「リョウのことは、あまり深く詮索しないほうがいいと思うな」
「そんなつもりはないよ。ただ、いろいろと不思議なだけや。あの時も……」友彦は口ごもった。ナミエにどこまで話していいかどうかわからなかった。
すると彼女は平然といった。「花岡夕子さんのこと?」
「まあね」彼は頷いた。彼女も事情を知っているとわかり、内心ほっとしていた。「狐につままれたみたいっていうのは、こういうことをいうんやろうな。一体、あいつはどうやって、あの事件を始末したんやろ」
「気になる?」
「そりゃあもちろん」
友彦の言葉にナミエは顔をしかめ、ボールペンの後ろでこめかみを掻いた。
「あたしが聞いた話では、死体が見つかったのは、花岡夕子さんがチェックインした翌日の午後二時頃。チェックアウトタイムを過ぎているのに、フロントに何の連絡もないし、部屋に電話をかけても誰も出ないから、ホテルの人間が心配して様子を見に行ったそうよ。ドアには自動ロックがかかってるから、マスターキーで開けて部屋に入ったわけ。花岡夕子さんは、全裸でベッドに横たわっていたそうね」
友彦は頷いた。その状況なら想像できた。
「すぐに警察が駆け付けたんだけど、どうやら他殺の疑いはなさそうだということになったの。性行為中に心臓発作を起こしたんだろうというのが、警察の見解だったみたい。そして死亡推定時刻は、前夜の十一時頃」
「十一時?」友彦は首を傾げた。「いや、そんなはずは……」
「ボーイが会ってるのよ」とナミエはいった。
「ボーイ?」
「ルームサービス係に、バスルームにシャンプーがないから届けてほしいと女性の声で電話があったらしいの。それでボーイが届けに行ったところ、花岡夕子さんがシャンプーを受け取ったそうよ」
「いや、それはおかしい。俺がホテルを出た時――」
友彦が言葉を止めたのは、ナミエがかぶりを振り始めたからだ。
「ボーイがいってるのよ。たしかに十一時頃、女性のお客さんにシャンプーを渡したってね。あの部屋の女性客となると、花岡夕子さんということになるじゃない」
「あっ」
そういうことかと友彦は合点がいった。誰かが花岡夕子になりすましたのだ。あの日、夕子は大きなサングラスをかけていた。髪形を似せて、あれをかければ、ボーイを騙《だま》すことは難しくないかもしれない。
では誰が花岡夕子に化けたのか。
友彦は目の前にいるナミエを見た。
「ナミエさんが、彼女に?」
するとナミエは笑いながら首を振った。
「あたしじゃない。そんな大胆なこと、あたしには無理。すぐにぼろを出しちゃう」
「そしたら……」
「それについては、考えないほうがいいわね」ナミエは、ぴしりといった。「それはリョウしか知らないこと。どこかの誰かがあなたを救ってくれた。それでいいじゃない」
「けど」
「それからもう一つ」ナミエは人差し指を立てた。「警察は花岡夕子さんの旦那さんの話で、あなたに目をつけた。でもすぐにあなたには興味を失った。なぜだかわかる? それはね、現場から見つかったのは、AB型の痕跡だったからよ」
「AB型?」
「精液」ナミエは瞬《まばた》きもせずにいった。「夕子さんの身体から、AB型の人物の精液が検出されたというわけ」
「それは……おかしい」
「そんなはずはないといいたいんだろうけれど、それが事実なんだから仕方がないでしょ。彼女の膣《ちつ》の中には、たしかにAB型の精液が入っていたの」
入っていた、という表現が引っかかった。それで友彦は、はっとした。
「桐原の血液型は?」
「AB」そういってナミエは頷いた。
友彦は口元に手をやった。軽い吐き気を催した。真夏だというのに、背中が寒くなった。
「あいつが死体に……」
「何があったかを想像することは、あたしが許さない」ナミエはいった。ぞくりとするほど冷たい口調だった。目もつり上がっていた。
友彦は、いうべき言葉が思いつかなかった。気がつくと震えていた。
その時、玄関のドアが開いた。
「広告の段取りをつけてきた」桐原が部屋に入ってきた。手に持っていた紙をナミエに渡した。「どうや、見積り通りやろ」
ナミエはそれを受け取り、微笑んで頷いた。その表情は少し固い。
桐原はすぐに部屋の空気が先程までと違っていることに気づいた様子だった。彼はナミエと友彦の顔をじろじろ見ながら、窓のそばに行き、煙草を一本くわえた。
「どないした」桐原は短く訊き、ライターで火をつけた。
「あの……」友彦は彼を見上げた。
「なんや」
「あの……俺」唾を飲み込んでから、友彦はいった。「俺、何でもする。おまえのためやったら、どんなことでも」
桐原は友彦の顔をしげしげと見つめた後、その目をナミエに向けた。彼女は小さく頷いた。
桐原は視線を友彦に戻した。その顔にいつもの冷たい笑みが戻った。その笑みを唇に漂わせたまま、うまそうに煙草を吸った。
「当然や」
そして彼は少し濁った青空を仰ぎ見た。
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