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双语阅读:【青春小说连载】春の夢(109)

时间:2012-01-17 14:57:10  来源:可可日语  作者:dodofly

哲之の説明を聞き終えると、島崎課長は声をひそめて、
「そら、えらいこっちゃったんやなァ」
と言った。そしてすぐにフロントに電話をかけた。
「フロント主任には内緒にしといて下さい」
島崎は受話器を耳にあてがったまま、まかしておけというふうに、二、三回頷いた。
「井本課長は、きょうは日番か?」
フロント係にそう聞いてから、送話器を手で押さえ、
「井本はぼくと同期でなァ。口の堅い男や」
と哲之に説明して、片目をつぶった。井本が電話に出て来たらしく、ちょっと相談があるから来てくれないと言って、島崎は電話を切った。すぐに井本がやって来た。いなかの小学校の、謹厳実直な教頭みたいな顔をしたフロント課の井本課長は、このホテル随一の語学力の持ち主で、英語とフランス語は、ときおり外人客が真顔で賞めるほど、正統なものであった。井本はしばらく考え混み、事務所から出て行き帰って来ると、
「ミスター?ラングは今晩の宿迫費も前払いですましてはるよ」
と言った。それから煙草を一服喫い、
「今晩の宿迫費はお返ししよう。そんな事情やったら、たとえちょっとでも金が減らんようにせんとなァ」
そう呟いて、何か大きな悩み事をかかえている人みたいにうなだれた。
「ぼくにもお袋がおってなァ。八十八や。やっぱりぼくの女房とうまいこといかんのや。恥ずかしい話やけど、先月、自分から西宮の養老院へ入ってしまいよった。養老院言うても、設備の整った施設の、そないに陰気なとこと違うけどもなァ……。ほっとする気持と、えらい親不孝してる気持とで、何やしらん落ち着かんわ」
哲之が従業員用の裏口から出て、陽子の待っている喫茶店に歩いていきかけたとき、島崎課長がおって来て肩を叩いた。
「就職のことやけど」
と島崎は言った。
「ぼくとしては、もうそろそろ返事を貰いたいんやけどなァ」
「ぼく、お世話になることに決めました」
嬉しそうに笑顔で哲之を見上げ、
「そうか。ほんまに決めたんやな。よっしゃ、ぼくにまかしてくれるか?」
と島崎課長は言って、せかせかと職場に戻って行った。でも十年間だ。と哲之は胸の中で言った。十年間、一所懸命働いて、金を貯め、父の言ったように、何か自分で商売をするのだ。どんな商売が自分に向かいているのか、それにはどれだけの資本が必要なのか、まだまったく見当もつかなかったが、ほんの二時間ほど前の、陽子の不思議な愛撫は、いま頃になって哲之を勇気づけてきた。

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