双语阅读:《福尔摩斯之跳舞的人》第2回
「何んだ、――これは小供の絵ではないか――ホームズ君!」
私は叫んだ。
「ははははははは、そんなものに見えるのかね!」
「じゃ何なんだね?」
「これは、ノーフォークのリドリング公領[#「リドリング公領」は底本では「リドリユグ公領」]のヒルトン·キューピット氏が、しきりに知りたがっていることなんだがね。この謎のような問題は、第一回の郵便配達で来て、その人は二番列車でその後から来ることになっているのだ。ああワトソン君。ベルが鳴っているが、あるいはその人かもしれない――」
重々しい足取りが、階段にきこえたと思う中(うち)に、一人の紳士が入って来た。脊の高い、血色のよい、綺麗に剃(あ)てられた紳士で、その澄んだ目、輝く頬、――と、ベーカー街の霧の中からは遥に離れた処に生活している人に相違ないと思われた。彼が室(へや)の中に入って来た時に、どこか強健なきびきびしたような、東海岸独特の香(におい)が、ただよって来るようであった。彼は我々二人と握手を交わして、さて腰かけようとした時に、私が見て机の上に置いてあった、不思議な記号のようなものに目を止めた。
「ああホームズさん、――これをどう云う風にお考えになりましたか?」
彼は叫んだ。
「あなたは大変、奇妙な神秘的なことをお好きでいらっしゃるそうですが、しかしこれはまた一段と、奇妙不可思議なものでしょう。私はあなたが、私が来る前に研究しておかれるようにと思って、前もってお送りしたわけです」
「これはたしかに奇妙なものですな」
ホームズは云った。
「ちょっと見れば、子供の悪戯画(いたずらがき)のようにも思われるし、また、紙の上を踊りながらゆく、でたらめな小さな姿の、絵のようでもありますね。一たいこんな変な、得体の知れないものに、どうしてそんな勿体振った意味をつけようと仰有るのですか?」
「いや、私は決してそう云うつもりではないのですが、ただ私の妻が大変なのです。実は妻が全く気絶するほど、これに驚かされたのです。彼の女は何にも云いませんが、しかし私はその目の中に、非常な驚怖(きょうふ)を見て取りました。それでそれを穿鑿(せんさく)してみたいと思ったわけです」
ホームズは紙片を取り上げて、太陽の光線をその上に直射せしめた。その紙片は、ノートブックから離し取ったもので、鉛筆で次のような象形(かたち)が画かれてあった。
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