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【双语阅读】【白夜行】第二回

时间:2011-08-31 09:45:09  来源:  作者:

读完了感动了大家的《恋空》今天起我们来一起读东野圭吾的经典小说 白夜行

 

《白夜行》将无望却坚守的凄凉爱情和执著而缜密的冷静推理完美结合,被众多“东饭”视作东野圭吾作品中的无冕之王,被称为东野笔下“最绝望的念想、最悲恸的守望”,出版之后引起巨大轰动,使东野圭吾成为天王级作家。2006年,小说被改编成同名电视连续剧,一举囊括第48届日剧学院奖四项大奖。“只希望能手牵手在太阳下散步”,这句象征《白夜行》故事内核的绝望念想,有如一个美丽的幌子,随着无数凌乱、压抑、悲凉的事件片段如纪录片一样一一还原,最后一丝温情也被完全抛弃,万千读者在一曲救赎罪恶的爱情之中悲切动容……

 

キリハラヨウスケ――桐原洋介というのが被害者の名前だった。質屋『きりはら』の主人である。店舗兼自宅は、現場から約一キロのところにあるという話だった。

 妻の弥生子《やえこ》によって身元が確認されると、死体は早速運び出されることになった。鑑識課員たちが担架にのせるのを笹垣も手伝った。その時、あるものが彼の目を引いた。

「被害者、飯を食うた後やったんかな」彼は呟《つぶや》いた。

 えっ、とそばにいた古賀刑事が訊き直した。

「これや」といって笹垣が指したのは、被害者が締めているベルトだった。「見てみい、ベルトを締める穴が、ふだんより二つもずれてるやろ」

「あっ、ほんまですね」

 桐原洋介が締めていたのは、バレンチノの茶色のベルトだった。いつも使っているのが端から五番目の穴だということは、ベルト表面についたバックルの跡と、その穴だけが細長く広がっていることから明らかだった。ところが現在死体が使っていたのは、端から三番目の穴だったのである。

 この部分を写真に撮っておいてくれと、笹垣は近くにいた若い鑑識課員にいった。

 死体が運び出されると、現場検証に加わっていた捜査員たちも、次々に聞き込みに出ていった。残っているのは、鑑識課員のほかは笹垣と中塚だけになった。

 中塚は部屋の中央に立ち、改めて室内を見回していた。左手を腰に、右手を頬に当てるのは、彼が立ったまま考え事をする時の癖だった。

「笹やん」と中塚はいった。「どう思う? どういう犯人やと思う」

「全くわかりませんな」笹垣も、さっと視線を巡らせた。「わかるのは、顔見知りやということぐらいですわ」

 着衣や頭髪の状態に乱れがないこと、格闘の痕跡がないこと、正面から刺されていることなどが、その根拠だった。

 中塚は頷く。異論はないという表情だった。

「問題は、被害者と犯人がここで何をしてたのか、ということやな」班長はいった。

 笹垣はもう一度、部屋の中を一つ一つ目で点検していった。ビル建築中、この部屋は仮の事務所として使われていたらしい。死体が横たわっていた黒い長椅子も、その時に使われていたものだ。ほかにはスチール机が一つとパイプ椅子が二つ、それから折り畳み式の会議机が一つ、壁に寄せて放置してあった。いずれも錆《さび》が浮き出ており、粉をふりかけたように埃が積もっていた。ここの建設がストップしたのは二年半も前だった。

 笹垣の視線が、黒い長椅子の真横にある壁の一点で止まった。ダクトの四角い穴が天井のすぐ下にある。本来は金網をかぶせるのだろうが、もちろん今はそんなものはついていない。

 このダクトがなければ、死体の発見はもっと遅れたかもしれなかった。というのは、死体の発見者は、このダクトから室内に入ったからだ。

 西布施警察署の捜査員の話によると、死体を見つけたのは近所の小学三年生だった。今日は土曜日なので学校は午前中だけである。午後から少年は同級生と五人で、このビルで遊んでいた。といっても、この中でドッジボールや鬼ごっこをするわけではない。彼等はビルの中を通っているダクトに入り、迷路ごっこをしていたのだ。たしかに、複雑に曲がりくねったダクトの中を四つん這《ば》いになって進むというのは、男の子にとっては冒険心をくすぐられるゲームかもしれなかった。

 どういうルールで遊んでいたのかはさだかでないが、五人の中の一人だけが途中で別のルートを進んでしまったらしい。少年は仲間とはぐれ、焦《あせ》ってダクトの中を這い回った。やがて到達したところが、この部屋だった。少年は最初、この長椅子で寝ている男が死んでいるとは思わなかったそうだ。だからダクトから出る時、飛び降りた拍子に男が目を覚ますのではないかと心配したという。ところが男は全く動かなかった。少年は怪訝《けげん》に思い、おそるおそる男に近づいてみた。胸の血痕に気づいたのは、その直後だった。

 少年が自宅に帰り、家族に教えたのが午後一時前だ。だが、彼の母親が息子の話を本気にするまでに二十分ほどを要した。西布施警察署に通報があったのは、記録によれば午後一時三十三分となっている。

「質屋……か」中塚がぽつりといった。「質屋の親父に、こんな場所で人と会わなあかんような用事があるやろか」

「人に見られたくない相手、見られたらまずい相手と会ってた、ということですかな」

「それにしても、わざわざこんな場所を選ばんでもええやろ。人に見られんと密談のできる場所やったら、なんぼでもある。それに人目を気にするのやったら、もっと自宅から遠い場所を選ぶんと違うか」

「そうですな」笹垣は頷き、顎をこする。無精髭《ぶしょうひげ》の感触が掌にあたる。急いで出てきたので、剃ってくる暇がなかった。

「それにしても、派手な嫁さんやったな」中塚が違う話題に入った。桐原洋介の妻、弥生子のことだ。「三十過ぎ、というところやろな。被害者の年齢は五十二歳か。ちょっと離れすぎてる感じはする」

「あれ、素人やおませんな」笹垣が小声で応じる。

 うん、と中塚も二重顎を引いた。

「女というのは恐ろしいな。現場が家から目と鼻の先やっちゅうのに、一応化粧してきよったもんなあ。そのくせ亭主の死体を見た時の泣きっぷりは、かなりのもんやった」

「化粧と一緒で、ちょっと泣き方が派手すぎる、ですか」

「わしはそこまではいうてへんで」中塚はにやりと笑ってから、またすぐに真顔に戻った。「嫁さんからの話は、そろそろ聞き終わった頃やろ。笹やん、悪いけど、家まで送ってくれるか」

「わかりました」笹垣は頭を一つ下げ、ドアに向かった。

 ビルの外に出ると野次馬たちの数はかなり減っていた。そのかわりに新聞記者たちの姿が目に付くようになっていた。テレビ局の人間も来ているようだ。

 笹垣は止まっているパトカーに目を走らせた。手前から二番目のパトカーの後部座席に桐原弥生子の姿があった。彼女の隣に小林刑事が、助手席に古賀刑事が乗り込んでいた。笹垣は近づいていき、後部座席の窓ガラスを叩《たた》いた。小林がドアを開けて出てきた。

「どんな具合や」と笹垣は訊いた。

「一通り訊き終わったところです。まあはっきりいうて、まだちょっと気が動転してる状態ですわ」口元を掌で隠して小林はいった。

「所持品の確認はさせたか」

「させました。やっぱり財布がなくなってるみたいです。ほかにはライターです」

「ライター?」

「ダンヒルの高級品やそうです」

「ふうん。で、亭主はいつから行方不明やったんや」

「昨日の二時か三時頃に家を出たというてます。行き先はいわへんかったらしいです。今朝になっても帰ってけえへんかったので、ずっと心配してたそうです。もうちょっとしたら警察に届けようと思うてた矢先に、死体が見つかったという連絡が入ったみたいですな」

「亭主は誰かから呼び出されたんか」

「それがわからんそうです。家を出る前に電話があったかどうかも覚えてないというてます」

「亭主が出ていく時の様子は?」

「特に何も変わったところはなかったというてます」

 笹垣は人差し指の先で頬を掻いた。手がかりになりそうな話は全くない。

「その調子では、犯人の心当たりもないんやろな」

 ええ、と小林は顔をしかめて頷いた。

「このビルのことで何か知ってることはないかどうか、訊いてみたか」

「訊いてみました。ここにこういうビルがあることは前から知ってたけども、どういう建物かは全然知らんかったそうです。入ったのも今日が初めてで、旦那《だんな》がこのビルのことを話すのも聞いたことないというてます」

 笹垣は思わず苦笑いをした。「ないないづくしやな」

「すんません」

「おまえが謝ることないがな」笹垣は手の甲で後輩の胸を叩いた。「奥さんは俺が送っていくわ。古賀に運転させるけど、かめへんな」

「ああ、どうぞ」

 笹垣は車に乗り込み、桐原家に向かうよう古賀に命じた。

「ちょっと遠回りして行こ。被害者の家が近くにあることを、まだマスコミの連中に感づかれとうない」

 わかりました、と古賀は答えた。

 笹垣は隣の弥生子のほうに身体を向け、改めて自己紹介した。弥生子は小さく頷いただけだった。刑事の名前をわざわざ覚える気はないようだった。

「お宅のほうは、今は誰もいてはれへんのですか」

「いえ、店の者が番をしてくれています。息子も学校から帰ってますし」俯《うつむ》いたまま彼女は答えた。

「息子さんがいらっしゃるんですか。おいくつですか」

「五年生になりました」

 ということは十歳か十一歳か、と笹垣は頭の中で計算し、改めて弥生子の顔を見た。化粧でごまかしているが、肌は荒れているし、小皺も目立ってきている。それぐらいの子供がいても不思議ではなかった。

「昨日、御主人は何もいわずにお出かけになったそうですね。そういうことは、よくあるんですか」

「時々あります。そのまま飲みに行くことも多かったんです。それで、昨日もその調子やろうと思て、あまり気にしてなかったんですけど」

「朝帰りされることもあったんですか」

「ごくたまに」

「そんな時でも電話はないんですか」

「めったにしてくれませんでした。遅くなる時には電話してくれと何遍か頼んだんですけど、わかったわかったていうだけでした。それで私も、ちょっと慣れっこになってたんです。けど、まさか殺されてるやなんて……」弥生子は口元を手で押さえた。

 笹垣たちを乗せた車は適当に走り回った後、大江三丁目の表示が出た電柱のそばに停止した。細い道路の両側に棟割り住宅が並んでいる。

「あそこです」古賀がフロントガラス越しに前方を指差した。二十メートルほど先に、『質きりはら』の看板が見えた。マスコミもまだ被害者の身元は掴《つか》んでいないらしく、店の前に人影はない。

「俺は奥さんを送っていくから、先に戻っといてくれ」笹垣は古賀に命じた。

『質きりはら』のシャッターは、笹垣の顔の高さあたりまで下りていた。弥生子に続いて、笹垣もその下をくぐった。シャッターの向こうに、商品の陳列ケースと入り口があった。入り口のドアには曇りガラスが入っており、ここにも金色の毛筆体で『きりはら』と縦書きしてあった。

 弥生子はドアを開け、中に入った。笹垣も後に続いた。

「あっ、お帰りなさい」正面のカウンターにいる男が声をかけてきた。年齢は四十歳前後というところか。身体は細く、顎は尖《とが》っている。黒々とした髪は、ぴっちりと七・三に分けられていた。

 弥生子はふうっとため息をつき、客用のものと思われる椅子に腰掛けた。

「どうでした」男は彼女の顔と笹垣を交互に見ながら訊いた。

 弥生子は頬に手を当てていった。「あの人やったわ」

「何と……」男は顔を曇らせた。眉間に影の線が出来た。「やっぱり、その、殺されてたわけですか」

 彼女は首を小さく縦に振った。うん、と答えた。

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