双语阅读:【青春小说连载】春の夢(59)
小说《春之梦》发表于上世纪80年代,描写的是一位大学生的生活。父亲欠债而死,大学生哲之就流浪、打工,偿还所欠的债务。一只被钉到木柱子上的蜥蜴还活着,一直陪伴着他。还有他的爱情生活也激励着他生活。经过一年的奋斗,终于走出阴暗的生活。
五(2)
「お父ちゃん、私がくれくれってさんざんねだっても、そうしてもうんと言わへんかったのよ。女が男物の時計を持ってどうするつもりやとか、これは俺の思い出がいっぱい詰まってる時計やとか言うて、なかなか離せへんかってんから」
「ようくれたな」
「新しいロレックスが安く手に入ったから、それでやっと私にくれたの」
「こんな男物の時計、なんでそないに欲しかったんや?」
「もうこんな年代物のロレックスは、捜したって手に入れへんでしょう。それに、なんとなくこの時計を好きやったの」
「こいつは大丈夫なことでは世界一やぞォ」
「大事にしてね」
五時半だった。アイスコーヒーを飲み干して、陽子は立ちあがった。その陽子の胸を薄いブラウス越しに見て、哲之は突然烈しい欲情を感じた。それが哲之の表情を暗くさせ、言葉を閉ざさせた。喫茶店を出て陽子が何か言ったが、哲之は黙っていた。陽子の胸や唇や股間(こかん)に視線を走らせて、あとはそのまま目を歩道に落としていた。
「どうしたん?何を怒ってるの?」
陽子が小首をかしげるようにして訊いたが哲之はじっと歩道を見つめたまま口を開かなかった。
「またや。いっつもそうやって急に機嫌が悪なるねんから……」
陽子も機嫌をそこねたようだった。ふたりは道路を渡ったところで別れた。哲之がうしろ姿を見送っていると、陽子はふいに振り返って、雑踏の中で「あかんべえ」をした。道行く人の何人かが陽子を見つめていた。
哲之はロッカールームでボーイ服に着換え、急いで事務所に行った。
「四十分遅刻やぞォ」
鶴田(つるた)と言うページ?ボーイのひとりが事務所に腰をかけて言った。
「すみません」
謝ったが、鶴田は哲之のタイムカードを自分で機械に打ち込み、数字の上にエンピツで印を入れた。
「時間なんぼで働いてるんやから、四十分の賃金(ちんぎん)は引かせてもらうでェ」
それを決めるのはボーイ?キャプテンである磯貝(いそかい)の仕事の筈だった。だが哲之は、はいと小声で返事をしてロビーに出て行った。すると鶴田があとを追って来て、
「当分、俺がボーイ?キャプテンの代理をすることになったからな」
と囁いた。鶴田はいつも、客を部屋に案内して行ったあと、いかにもどこかで仕事をしているふりをして、ホテルの各階にあるボーイの詰所で女の従業員と馬鹿話にふけって時間をつぶしている男だった。哲之はその鶴田のにきび面を見やって、
「磯貝さん、どうしたんですか?」
と尋ねた。
「昼前にまた倒れよってなァ、いまは仮寝室で休んどるわ。課長が、しばらく休ませた方がええやろ言うて、俺にあいつの代わりをするよう頼みよったんや」
「お父ちゃん、私がくれくれってさんざんねだっても、そうしてもうんと言わへんかったのよ。女が男物の時計を持ってどうするつもりやとか、これは俺の思い出がいっぱい詰まってる時計やとか言うて、なかなか離せへんかってんから」
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