双语阅读:【青春小说连载】春の夢(90)
小说《春之梦》发表于上世纪80年代,描写的是一位大学生的生活。父亲欠债而死,大学生哲之就流浪、打工,偿还所欠的债务。一只被钉到木柱子上的蜥蜴还活着,一直陪伴着他。还有他的爱情生活也激励着他生活。经过一年的奋斗,终于走出阴暗的生活。
七(11)
と言って、紙幣を哲之のズボンのポケットにねじ込んだ。ロビーから出るとき振り返ると、陽子はティーラウンジに坐ったまま、小さなイヤリングを耳たぶから外し、掌に乗せてそれに見入っていた。陽子の前にはいずれまた、もうひとりの石浜が現れるだろうと思ったが、哲之には別離の哀しみはなく、さっきの戦いの余韻によってさらに力を増やした異様な活力が、彼にホテルの重いガラス戸を勢いよく押し開けさせた歩いて行くうちに哲之は自分が恥ずかしくなってきた。人を見る眼力か、と心の中で言った。逆境に弱い、ふところが狭い、か。よく人のことをそんなふうに言えたもんだ。逆境に弱くふところが狭いのは、他の誰でもなく、この俺自身ではないか。ひとり取り残された陽子はどうなる。このまま陽子との別れてしまったら、取り返しのつかないことになるぞ。哲之は踵を返し、ホテルに走った。陽子が永遠に自分の前から消え去ってしまったような予感をいっぱいに抱きながら恐れる恐れるティーラウンジの中を覗いた。しかし陽子はそこに坐っていた。哲之を見て、陽子は顔を赤らめた。なぜ顔を赤らめたのか哲之には判らなかった。
「もしあと十分待って、哲之がここへ帰ってけえんかったら、私、哲之をほんとに嫌いになろうって思ってたの。絶対帰って来るって思ったけど、帰ってけえへんかったらそうしようかって考えたら、胸がどきどきしたわ」
「なんで絶対に帰って来るて思た?」
「私のことを好きやもん」
「石浜さんとのことは、もう終わったんやろ?」
「卑怯な手を使って終わらせたのは誰やのん?」
「俺には、もうあの手しかなかったんや」
「そんな手を使う必要なんかなかったのに」
それまで立ったままだった哲之はが椅子に坐るのを待ってから、
「哲之がお風呂に入ってるとき、心が決まったの。それが判れへんかった?」
と陽子は言った。
「判る筈がないやろ?初めて俺に、他の男を好きになってる言うた晩も、俺と一緒にホテルへ行ったやないか」
陽子がまた顔を赤く染めたので、哲之は勢い込んで言った。
「俺に結婚して下さって言え!」
「いや。口が裂けても言うてあげへん。それより、哲之に結婚して下さいって頭を下げさせるの」
陽子はくすくす笑った。テーブルの上に額をすりつけ、結婚して下さいと哲之は小声で言った。哲之は、歓びの底にある、小さいけれども深い傷口から、血が流れ出ているのを感じた。
「俺はこの二十日間、七転八倒してたんやぞ」
頭を上げ、陽子の笑みのどこかに漂っている寂しげな翳に気づいて、ひょっとしたら陽子はさっきの自分と石浜とのやりとりで、真実石浜を愛したのではなかろうかと不安になった。
「私、こんどのことを、哲之は絶対に忘れてくれへんと思うわ。結婚してから、昔のことを持ち出して、ねちねちといじめるのは哲之の方みたいな気がする。哲之は負けず嫌いで、自尊心(じそんしん)が強くて、やきもち焼きで、執念(しゅうねん)深くて、頭がええから……」
「頭がええというのは陽子のおまけやな。俺はアホや。そやけど他のことは全部当たってるよ。そんな男は、行末は泥棒か詐欺師になるのが関の山や。女房を苦労させる男の典型や」
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