双语阅读:【青春小说连载】春の夢(91)
小说《春之梦》发表于上世纪80年代,描写的是一位大学生的生活。父亲欠债而死,大学生哲之就流浪、打工,偿还所欠的债务。一只被钉到木柱子上的蜥蜴还活着,一直陪伴着他。还有他的爱情生活也激励着他生活。经过一年的奋斗,终于走出阴暗的生活。
七(12)
陽子のふくよかな顔からはいつしか微笑みが消え、はっきりと寂しそうな表情を露わにしていた。
「俺、陽子が他の男を好きになるなんて想像もしてなかった。さっきの俺という人間の分析の中に、自惚れ屋っちゅう言葉も入れんとあかんな」
「私、まだ二十一よ。男の人にちやほやされたら、やっぱり嬉しいし、心が働くわ。それが悪いって言うの?」
哲之は、互いが本気で言い争いを始めたのに気づいて口をつぐんだ。陽子と口喧嘩になって負けそうになると、これまではきまって陽子の向こう臑を蹴りつけるのが常であった。手加減はしているつもりなのに、青い痣をつくらせて丸一日口をきいてもらえないことが二、三度あったのだった。哲之はテーブルの下にある陽子の向こう臑を軽く蹴ることで己の愛情を示そうとした。だがそうする前に、陽子は涙ぐんで言った。
「私、哲之が恐い。恐いけど、やっぱり自分の気持を言うわね」
いっそう石浜という男を愛してしまった。それに近い言葉が陽子の口から吐き出されるものと思っていたが、陽子はそうは言わなかった。
「私にとって哲之は特別よ。石浜さんを好きになったのはほんと。そやけどそんなこと、哲之に対する気持と比べたら、ぜんぜん種類の違うもんやってことぐらい自分でも最初から判ってたわ。私には打算(ださん)があったの。どっちが私にとって得かって……。その打算が、だんだん本気で石浜さんを好きにさせていったの。そうやって男の人を好きになっていける女よ。私、哲之が考えてるような純真無垢な女と違うわ。哲之、また怒って足を蹴るでしょう。蹴ったってかめへんのよ」
陽子の泣き顔を見ていられなくなって、哲之はテーブルの上に目を落とした。悪寒と倦怠感があった。取立て屋の小堀の顔が浮かび、母の雇い主である芸者上がりの肥ったおかみの二重顎が目先にちらついた。父の残した借金が、行手に黒黒とした壁をつくっていた。陽子が時間を訊いた。
「九時十分」
哲之はそう答えて立ちあがった。陽子もハンドバッグを持って立ちあがり、無言でロビーを横切り、ホテルから出た。陽子はもうこれで自分のもとには帰ってこないだろうと思いながら、阪急電車も改札口に立って、哲之はホームへの階段をのぼっていく愛しいたおやかな生き物のうしろ姿を見ていた。
片町線の汚れた電車に乗っている間中、彼は継続的に襲ってくる悪寒を押さえようと、首をうなだれ、体に力を込めて腕組みし、じっと目を閉じていた。哲之は金が欲しいと思った。駅からアパートへの暗い長い道を震えながら歩きつつ、金が欲しい、金が欲しいと思った。アパートの階段をのぼっているとき、クリムシの入った箱を持っていないのに気づいた。ホテルのティーラウンジのテーブルに置き忘れてきたのか、電車の網棚に忘れてきたのか、哲之はまったく思い出せなかった。彼はキンの傍に行き、
「悪いけど、きょうは晩飯抜きや。水だけで辛抱しといてくれ」
と言った。スプーンの中の水を長い舌で舐めているキンに、哲之はいつものとおり語りかけた。あたかもその日の出来事を日記にしたためているのと同質の行為を、もう数カ月も毎夜毎夜哲之はつづけて来たのだった。ほとんどの日記がそうであるように、哲之がキンに語りかける言葉には嘘もあった。
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