双语阅读:【青春小说连载】春の夢(103)
小说《春之梦》发表于上世纪80年代,描写的是一位大学生的生活。父亲欠债而死,大学生哲之就流浪、打工,偿还所欠的债务。一只被钉到木柱子上的蜥蜴还活着,一直陪伴着他。还有他的爱情生活也激励着他生活。经过一年的奋斗,终于走出阴暗的生活。
八(10)
「あの利休が、幾ら天下人と言ったって、所詮は水呑み百姓から成り上がった秀吉を恐れたりするもんですか。歯牙にもかけてなかった筈よ。二年ほど前の朝、いやに早く目が醒めて、私、なんとなく茶をたててみたくなった。女中もまだ眠っているし、仕方がないので自分で火をおこして茶室に入ったんです。どんな道具を使ったのか忘れましたけど、茶碗だけは覚えてるの。さっきのいま焼の赤茶碗でしたよ。私、ひとりで夜明け前の茶室に正坐して、茶碗の中を見つめました。二十歳のときから茶を習って、もう六十年以上も私は茶の何を見て来たんだろうって考えたんです。そのときふいに茶が緑色の毒薬に見えたんですよ。毒薬というより、死そのものに見えたと言った方はいいかも知れませんねェ。そこに死があって、私はその傍でいま生きている。そう思った途端、利休はとうの昔に、そのことに気づいていたんだって思ったの。茶碗の中に死があって、それを生きている自分が飲んだり客に飲ましたりする。そんなことを何千回、何万回と繰り返して来た茶人、それも利休ほどの茶人が悟らない筈はありませんよ。死の秘密と言うものにね。だって茶は、いつの間にか利休には宗教になってたに違いありませんからね」
沢村千代乃はそこで言葉を区切り、何やら考え込んでいたが、また静かな口調で話し続けた。
「でもそれは口には出来ないことだったでしょう。だから利休は、自分の悟った死の秘密を自分が死んで見ることで確かめるしかなかったんじゃないかしら。そうするしか、利休には自分の茶を完成させる手だてがなかったのよ。秀吉の切腹(せっぷく)の命は、彼にとっていい口実にしか過ぎたなかったでしょう。自分の立てた茶を飲み、戦場におもむいて死んで行った数限りない武将のことも、どうでもよかった。利休は自分の死に対する人には言えない悟りに近いものを立証するために、死んでみたのよ。……私、絶対そうに違いないって思ったの。二年前の冬の夜明けにね。目前の、赤茶碗の中の死を見たとき、本気でそう思ったの。だから、私は茶室でお昼寝をするんです。そうするとますますよく判ってくるんです。眠っている私は死。目醒めたら生。どちらも同じ私。生死、生死、生死……。利休は死ぬことでそれをはっきり見届けようとしたんだって……」
我知らず熱弁をふるったことを照られるように、沢村千代乃は哲之と陽子を見て笑った。その笑い声は、哲之にラング夫妻と熊井のいる茶室を、屋根のある閑雅な墓みたいに思わせた。哲之は、自分の見た不思議な夢を思い浮かべた。自分が一匹の蜥蜴になって、何百年も生き死にを繰り返していた夢は、沢村千代乃深読みとも独善とも取れる推理と、強く繋がっているのだった。哲之は、もうそれが当たり前の日常みたい担ってしまったキンの飼育に、そろそろ決着をつけなければならぬと考えた。目を凝らすと、庭を取り囲む榎や椎の枝が揺れ、そのたびに葉はこぼれ散っていた。来年の春、それもまごうかたのない温かさが天地に満ち溢れる日、キンの体から釘を抜こうと彼は思った。いま釘を抜いたら、新たな傷を負ったキンは、冬の寒さに耐えることなく死んでしまうだろうと考えたからである。
茶室の戸が開き、ラング夫妻と熊井が出て来た。
「いま何時かしら」
と沢村千代乃が訊いた。
「そろそろ十二時です」
「京料理を料亭に注文しときましたの。もう届く頃でしょう。よかったわ。そこの料亭のお弁当は、量がほどほどでおいしいのよ。いまの御夫妻の体に、ちょうど合った量ですよ」
沢村千代乃はそう言って立ち上がり、着物についた枯れ芝を手ではらった。ラング夫妻は、巽の池のところにたたずんで、寄り添(そ)ったまま水面を見つめていた、熊井は庭の斜面を昇って来て、ふたつの小さな白い紙包みを沢村千代乃に手渡した。
「青酸カリです」
「よく渡したわね」
「その気になれば、幾らでも死ぬ方法はある。だけど、それを持たせたまま、我々はあなた方をこの茶室から出すわけにはいかないって言ったんです」
熊井は屋敷の玄関に向かって歩きながら説明した。
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