双语阅读:【青春小说连载】春の夢(121)
概要:哲之来到了大学校内,在没有绿色的草坪上,有一对穿有合身粗呢大衣紧紧依偎在一起的认识的情侣,哲之在给他们以开玩笑的微笑时,听到了阳子的声音。
九(8)
翌日、哲之が大学の構内へ入り、青味の失せた芝草の上で、ひとつのダッフル?コートをすっぽりと巻きつけ身を寄せ合っている顔見知りのカップルに、ひやかしの笑みを投げつけたとき、陽子の声が聞こえた。彼はまわりを見廻したが、どこにも陽子の姿は見つからなかった。珍しく学生の数が多かった。卒業をひかえた四回生は、もうこれ以上講義を欠席するわけにはいかず、日頃ほとんど大学に来ない連中が一斉に授業を受け始めたからに違いなかった。彼は正門の方を振り返り、一番近くにある工学部の校舎に目をやった。また陽子の、哲之を呼ぶ声が聞こえた。ひとつのダッフル?コートの中で抱き合って坐っているカップルの表情を見て、彼の顔に自然な微笑が湧いた。そのうしろに陽子が隠しているのが判ったらだった。哲之は自分の微笑に気づくと、慌ててそれを消し、芝草の上を歩いて行って、
「おい、ダッフル?コートの中で何をしてるねん。それはあきらかに猥褻行為やぞ」
と、一組の恋人同士に声をかけた。
「手を握ってるだけよ」
女子学生が応じた。
「すでに、それはセックスやぞ」
哲之のその言葉に、こんど男子学生の方が笑いながら言い返した。
「俺らふたりの後ろに隠れて、『哲之』なんて甘ったる声で呼ぶ方が、もっと猥褻やと思うけどなァ……」
ふたりのうしろから陽子が立ち上がり、持っていた教科書で軽く男子学生の顔を叩くと、彼女は哲之の腕に全身を凭せ掛けて、自分の腕を絡めてきた。
「おい、お前ら、もうふたりか三人ほどの子持ちに見えるぞ」
男子学生がそう言った。
「処女が子供を産む筈ないやろ」
哲之の言葉にふたり声をたてて笑った。腕を組んで歩きながら、案の定、陽子が訊いた。
「きのう、なんで電話をかけてけえへんかったん?」
哲之はわざとあらぬ方に視線を向けて答えた。
「十円玉がなかったんや」
「両替してもろたらええでしょう?」
「千円札しかなかって、二、三軒の店で頼んだやけど断られた」
「私、二時まで起きて待ってたのよ。哲之が電話をかけてけえへんことなんか、これまでなかったもん……」
「あるよ。ことしの夏の何週間か」
絡めていた腕を離し、陽子は歩を停めた。
「何かそんなことを言うの?」
「俺かて電話をかけたかったら、商店街を行ったり来たりしたんや。何かものを買うんやったら両替したる。どいつもこいつもそんな顔をしよったから腹がたって、ガムを買うつもりやったけど、やめた」
言っているうちに、哲之はきのうの夜と同じ用に、もうこんなお芝居はやめようと決め、謝るために陽子に顔を向けた。ところが、そこには意外なほどに烈しい憤りを表した陽子の目があった。
「ことしの夏の何週間かって、それ何の意味?どうしていま頃、そんなことを言うの?」
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