双语阅读:【青春小说连载】春の夢(122)
提要:把那空白的时间当作话题,为什么阳子会那样生气发怒呢?这推断起来,在和石浜之间肯定有什么不可言语的事情。这样一想,哲之的心又有180°大转弯。我也想来制造几周的空白。
九(9)
あの空白の時間を話題にすると、なぜ陽子はこんなにもむきになって怒るのだろう。やっぱり石浜とのあいだに、俺には断じて言えない出来事があったからだ。その思いは、哲之の心をひるがえさせた。俺も、空白の何週間かを作ってやると思ったのである。彼は無言で文学部の校舎に入り、教室への階段をのぼった。陽気も同じように無言で、五、六歩遅(おく)れて階段をのぼり、教室に入ると、いつも隣に坐るくせに、わざと哲之から遠く離れた席に腰を降ろした。陽子は水色のワンピースを着ていた。授業が終わりかけた頃、陽子から小さな紙切れが、何人かの学生の手を経由して届けられた。(お腹が空いているの?)と書かれてあった。物をちゃんと食べていないと、哲之は神経が尖って、陽子に理不尽な我儘をぶつけることがしばしばあったのだった。そのひとことは、陽子からの停戦の申し出もあった。哲之が、陽子に笑顔で頷いてみせるだけで、小さないさかいは終わった筈だった。哲之はそうしたかった。なのに、彼の心の中では、あの夏の何週間かに対して、自分以上にこだわりを持っている陽子から、もはや凝いを消すことは出来なくなっていた。彼は、笑顔で頷く代わりに、立ち上がって顔をそむけたまま、教室から出て行った。彼は陽子があとを追って来ることを期待した。階段を降り、暗い廊下を進んで校舎から出た。正門まで急ぎ足で歩いて行きつつ、耳を澄ました。けれども、どこにいようとたちところに判別できる陽子の足音は聞こえてこなかった。
ホテルに着き、ボーイ服に着換えているときも、客の荷物を持ち、部屋に案内している最中も、哲之は、石浜に浴びせた自分の言葉と、その際の石浜の表情を繰り返し繰り返し、思い浮かべていた。--ぼくは陽子を抱きながら、石浜という男が、いま意気揚々とホテルに向かって歩いて来て姿を想像してほくそ笑んでましたーー。だが、そんな自分の言葉を聞きながら、石浜もまた心の中でほくそ笑んでいたことだろう。ふん、この馬鹿野郎。俺ももう充分陽子の体を楽しませてもらったよ、と。それは実際に、ひとりの人間の肉声として哲之の鼓膜を震わせるかのような現実味を帯びていたので、彼は何度か百合子とすれちがってが見向きもしなかった。百合子に気づかなかったのではなく、努めてよそよそしくふるまうことで、ある信号を送ってくる百合子に、それと同じ形で応じ返してやる余裕を失っていたのだった。仕事が終わる一時間ほど前に、哲之はそっとホテルから出て、公衆電話で三人の友人に、あしたの講義の代返を頼んだ。三人は一様に、なぜ陽子に頼まないのかと訊いた。いつも陽子にばかり頼んでいると、ばれてしまうからだと答えになっていなかった。なぜから、陽子はいつもその三人に、哲之のための代返を依頼していたからである。ホテルのフロントに戻って来ると、ひとりの中年の客が、中岡の胸ぐらをつかんで大声で怒鳴っていた。身なりはきちんとして酒気も帯びていなかったが、言葉つきははっきりとならず者のそれであった。その客は八時過ぎに若い女を伴ってやって来た。部屋に案内したのは哲之だったので、彼は男が二週間前に宿泊の予約をしていたこと、同伴した女を(妻 美津子)と宿泊カードに記載したこと、さらには職業と住所も知っていた。しかも、それらがことごとく嘘であることも知っていたのである。哲之には、もうひと目で男女の客が本当の夫婦かどうかを見掛けるようになっていた。東京都板橋区が坂橋区と間違って書かれていたうえに、借りにも画廊経営者が部屋に入るなり、壁にかけてあるせいぜい三、四千円程度の複製画を、
「なかなかいい絵がおいてあるじゃないか」
などと言う筈はなかったからである。ロビーにいる大勢の客たちが、顔色を変えて立ちつくしていたので、駆けつけた支配人が丁重に、事務所の方でお話をうけたまわりたいと言った。
「このホテルは、泥棒を飼ってるみたいじゃねェか」
と男は一段と大声を張り上げた。グリルで食事をして部屋に帰って来ると、三つの鞄のうちひとつが失くなっていたというのである。
「ホテルにはなァ、どの部屋もあけられるマスター?キーってのがあるんだよな」
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