双语阅读:【青春小说连载】春の夢(139)
提要:几个小时以后,有一个梦惊醒:从水里浮上来后,不知道被谁又摁了下去。打开枕头旁边的小台灯,看了看钟表,只是5点钟。也没有想起床,轻轻地拨一下阳子前额头的头发,看着她的睡相。
十(10)
何時間か後、水の中から浮上したのに、誰かに頭を押さえつけられてまた沈み込んで行った夢に驚き、哲之は目を醒ました。枕元のスタンドの豆電灯をつけ、時計を見ると、まだ五時であった。起こさないようにして陽子の前髪を静かにかきあげ、寝顔を見ていた。陽子は哲之の方に裸体を横向きにさせて眠っていたので、両腕に挟まれた乳房(ちぶさ)は窮屈そうで、彼はそっと上の腕を彼女の脇腹に移してやった。片方のひしゃげた乳首が下の形に戻っていくのに随分時間がかかり、その何だか滑稽な働きは、哲之の笑いを誘った。陽子は、何の夢を見ているのか、まるで赤児が母親の乳を吸っているように唇を小刻(こきざ)みに震わせ、かすかな音までたてた。哲之は用心深く掛け蒲団の中に腕をもぐり込ませ、人差し指で陽子の合わせめをなぞった。陽子の唇の、ちゅうちゅうという音が高まり、突然止まった。
男と女の愛情というものがいったい何であるかを、哲之は判りかけてきた。それがなぜ堅牢でもあり脆弱でもあるのかも判りかけてきた。彼は、もう二度と、陽子が他の男の心を移したことを口にすまいと誓ったが、誓いながらも、その自分の決意がいかにおぼつかないものであるかを知っていた。それでも、自分と陽子は結婚して、結構いい夫婦になるだろうなと思った。このつややかさと弾力(だんりょく)に満ちた陽子の肉体が、やがて必ずこの世から消えていくことに、哲之は口惜しさや恐ろしさを感じたが、そうであればこそ、自分は幸せと言うものについて真摯に思いを巡らせ、自分をも、自分の愛する者をも、しあわせに向かわしめる気力が生じるのだと思えてきたのだった。彼の脳裏には、沢村千代乃の醜悪な死顔がこびりついていた。沢村千代乃は、生死に対して、あんなにも冷静で、ある高度な宗教的悟りを語って聞かせた筈なのに、なぜ弔問(ちょうもん)客に決して見せるわけにはいかないほどの、身の毛もよだつ恐ろしい死顔をしていたのだろう。彼女は、死ぬ間際、女中に何を言ったのだろう。彼女は己の死生観を、本当に信じていたのだろうか。それは悟りなどではなく、彼女の最後の誇り、最後の、他人向けの自負(じふ)と装いとではなかったのか。哲之は、父の死顔と沢村千代乃の死顔とを比べてみた。父のそれは美しく、安寧でさえあった。父は生前、人に騙さかれてばかりいたが騙したことはなかった。裏切られて多くの物を喪ったが、人の物を奪ったりしなかった。悪いことをしなかった。正直であったればこそ、事業に敗れたとも言えた。だが、人生には勝ったのではないだろうか。沢村千代乃がいかなる人生をおくったのか、哲之はまったく知らなかったが、彼女に晩年のあの豊かで穏やかな生活をもたらしたものは、無数の他者の不幸を基盤としていたのかもしれない。彼女がどんなにそれを隠し、過ぎ去ったこととして片付けようが、彼女のなした行為は、その死顔を黒ずませ、歪め、片目を瞠かせたのだ。きっとそうに違いない。沢村千代乃はあの豪壮な邸も閑雅な庭園名高い茶道具も持って行けず、おぞましい死顔だけをたずさえたどこかへ旅立った。死顔こそが、その人の間の、隠しても隠しきれない究極の本性なのではあるまいか。
哲之はひたすらそんな思いにひたっていたので、自分の人差し指の働きをうっかり忘れてしまった。陽子の全身がぴこんと痙攣した。陽子は寝呆けまなこで哲之を見、「もう、この手は……。あかん、寝てるときにそんなことしたら」
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