ある日、心祝いをいたいことがあって、地方より上京した人から贈られた大小二尾の鯉のうちの大きい方を隣家の池の放した。わざわざ遠いところから土産にと持って来てくれた人の厚意に対してもこれは少し勿体なかったが、私はそのこころざしだけを頂いて、二尾の鯉をそのまま料理してしまいたくなかった。せめて大きい方の鯉だけでも活かしたかった。
他でもない、私は思いがけない病のために健康を失ってばかりいて、漸く気分の好い日の続く頃に、ある海岸の方へ養生がてらの旅に出掛けようとしていた矢先であった。見ると、その鯉は新聞紙に包まれた上をまた風呂敷きに包まれてきたものだ。水を離れて、力も抜けように、身動きもしなかった。私は病床から身を起したその自分の心を半死の鯉に寄せたかった。
死を待つものように見えた鯉も、私の家の盥の中で息を吹き返した。それが隣家にある深い池放されたとき、さも活き返ったように水の中を動いていった。もし私達の生命もあの鯉の姿のように生き返ることが出来たらいいと思った。
問題：
「大小二尾の鯉のうちの大きい方を隣家の池に放した」とあるが、それはなぜか。
１） 地方から来た人がくれたものだから。
２） もう動きもできなくなったから。
３） その鯉は水の中に入れられると、また動き出したから。
４） 病気になったばかりの自分の心を鯉に託したいから。

上一页 [1] [2] [3] 下一页