人を動かすものは、「アメとムチ」である。サーカスでクマに芸当を仕込む曲芸師のように、両手にアメとムチを持って、上手に操れば誰もがこちらの思い通りに行動するはずである。望ましい行動に対しては報酬を与え、好ましくない行動をしたら罰を加えればよい。

①このような仮定の下で、ティーチングマシンや行動療法などをはじめとする行動変容モデルが構築され、多くの成果を上げている。

しかし、近年になって人間の動機づけが必ずしも他者からのアメやムチを必要としないと思われる事実が相次いで報告されている。行動の結果得られる報酬が無くても、行動することそれ自体が報酬になっているような行動の存在が確認された。それどころか、②こちらの行動については、報酬を与えるとむしろ欲求が低減する場合すらあるとの報告がある。

キャレンダーとストウは、大学生にパズルをやらせて、そのうちの半数の学生に一生懸命やったことに対して金銭を報酬として与えた。前述の「アメとムチ」の理論に従うなら、金銭を受け取った学生の方が、支払われていない学生よりも相対的にパズルに対する興味を増大させるはずである。（　③　）実際には、パズルの性質によって結果が違っていた。退屈なパズルをやらされた学生については、予想どおり金銭を支払われた学生の方が受けなかった学生よりもパズルに対して興味を示したが、面白いパズルをやらされた学生については、報酬をもらった学生の方がそうでない学生よりもパズルに対する興味を（　④　）のである。本来、行動することの中に興味が内在しているような場合には、他者から与えられる金銭等の報酬が興味を低下させてしまうことが確認されたのである。

内発的な意欲や興味は、自分が主体的に「やっている」という感じを前提としているが、報酬によって⑤「やらされている」という感じに変化させられたのである。

内発的に動機づけられた行動は、自己の環境との関連において、有能で自己決定的でありたいという人間の基本的要求に根ざしている。アメとムチによる制御は、自分の活動を支配しているのは自分以外のものであるという実感つまり他律性の感覚を作り出す、他へ依存性を高めるのである。

問1　①「このような仮定」とあるが、どんな仮定か。

1報酬と罰を交またう交互に与えれば、こちらの思い通りに人を動かすことができるという仮定
2サーカスの曲芸師のように芸を仕込めば、こちらが思ったように人が行動するという仮定
3上手に操れば、だれでもこちらの思い通りになるという仮定
4望ましい行動には報酬を、そうでない行動には罰を与えれば思い通りに人を動かすことができるという仮定

問2　②「こちらの行動」とあるが、どんな行動か

1多くの成果を上げている行動
2動機付けを必要とする行動
3行動そのものが報酬となる報酬
4動機付けを必要としない行動

問3　（　③　）に入るものとして最も適当なものはどれか。

1ということは　　2ところが　　3ゆえに　　4そのために

問4　（　④　）に入るものとして最も適当なものはどれか。

1失っていた　　2増大させていた　　3示していた　　4低下させまいとしていた

問5　⑤「やらされている」とあるが、どう感じるのか。

1主体的やらなければならないと感じる
2お金を受け取った上、パズルができると感じる
3お金を受け取ったのだからやらなければならないと感じる
4アメとムチの理論にしたがって行動しなければならないと感じる

問6　筆者によれば、人が意欲的な態度を持つために何が必要か

1適度の報酬を得ながら自分の興味のあることだけすること
2自分の活動を支配しているのは自分以外のものであるという感覚に打ち勝つこと
3報酬の有無にかかわらず、「やらされている」ということを感じないようにすること
4有能で自己決定的でありたいという人間の基本的な要求を持ち続けること

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