日本語の文法「再帰形」
再帰形
日本語には音形のある代名詞があるかどうかは疑問視されています。このことが再帰代名詞にかんしても反映されます。英語の再帰代名詞のような代名詞は日本語にはありません。日本語には再帰形とよばれる「じぶん」という代名詞に似たのがあります。この再帰形は英語の再帰代名詞とは異なった振る舞いをします。次の文をみてください。
(1)
a. ケンはリサにじぶんの部屋で殴られた。
b. ケンはリサにじぶんの部屋で頭を殴られた。
c. ケンはリサにじぶんの部屋でかばんを盗まれた。
d. ケンはリサにじぶんの部屋で泣かれた。
(1)の文の再帰形「じぶん」は前の名詞を指します。(1d)だけは再帰形の「じぶん」の指す先行詞があいまいです。(1d)の「じぶん」は「ケン」を指す場合もリサを指す場合もありますが、ほかの文はすべて「じぶん」は「ケン」を指します。これは(1)の文の「に」という後置詞を「が」に変た場合に、どのようになるかで区別することができます。(1)の文を能動の形にしたのが次の文です。
(2)
a. リサがケンをじぶんの部屋で殴った。
b. リサがケンの頭をじぶんの部屋で殴った。
c. リサがケンのかばんをじぶんの部屋で盗んだ。
d. リサがじぶんの部屋で泣いた。
(2a)から(2c)までは(1a)から(1c)と比べると実際に「殴った」り「盗んだ」りした人は「リサ」です。一方、(2d)のみは(1d)と同じく「リサ」が泣いたことになっていますので(1d)のみはほかの(1a)から(1c)とは異なることがわかります。次に(1)の後置詞の「に」を「によって」に変えてみた文が次です。
(3)
a. ケンはリサによってじぶんの部屋で殴られた。
b. ケンはリサによってじぶんの部屋で頭を殴られた。
c. ケンはリサによってじぶんの部屋でかばんを盗まれた。
d. ケンはリサによってじぶんの部屋で泣かれた。
(3d)のみは「に」を「によって」に変えると非文となります。これからも(1d)は(1a)から(1c)の文とは異なることになります。日本語の再帰形である「じぶん」は主語指向であるといわれています。「じぶん」の先行詞はその前にある「主語」とみなされるものを指すことになります。(1d)のリサについている後置詞の「に」は主語を表わすことが可能であると考えられます。これは多分(1d)の文の中に「リサがじぶんの部屋で泣いた」とう文がなんらかの形で組み込まれているのであると考えることができます。一方、(1a)は純然とした単文「リサがケンを殴った」という文の受動態で、(1b)は「リサがケンの頭を殴った」の受動態で、(1c)は「リサがケンのかばんを盗んだ」の受動形であって、別の文が組み込まれたとは考えられないからです。
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