第11章 催促と抗議
ここで取り上げるたのは、部下や同僚へ作業や決定を急がせるときの言い方、取引先への催促の仕方です。この種の言い方は一歩誤ると、相手側との人間関係を壊してしまう恐れを常にはらんでいます。しかし、催促の仕方には日本的なノウハウがありますので、この章でそれを学んでください。
1、 会社内での催促
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(1) 部下への催促
<部下に作業を急がせる>
課長・:急がせて悪いんだけど、もうコピーは終わった?
李 :すみません。もうすぐ終わります。
課長・:じゃ、できるだけ急いでね。会議に間に合わせなければならないから。
李 :はい、かしこまりました。
課長・:じゃ、がんばってね。
<部下に連絡を急がせる>
課長・:A君からはまだ何の連絡も入っていない?
李 :ええ、まだ、何も。
課長・:そう。じゃ、悪いけど、私が電話を待っていると、彼に電話を入れておいてもらえない?
李 :はい、すぐ入れておきます。
<作業の進行を確認>
課長・:企画案の件だけど、どうなってる?
李 :はい、大筋は固まったのですが、もう少し細部について検討しなければならないことが残っています。
課長・:そう。じゃ、概略だけでもいいから、提出してくれない?
李 :はい、かしこまりました。
<作業の現場を見回りして>
課長・:ご苦労様。会場の準備は順調に進んでいる?
李 :はい、ほとんど終わりました。
課長・:そう。じゃ、よろしく頼むよ。
李 :はい、かしこまりました。
常套表現と解説
・ 急がせて悪いんだけど
・ ○○の件だけど、どうなっている?
○○の件だけど、進行の方はどうですか
ご苦労様。○○は順調に進んでいる?
部下に対する催促といっても、「早くしろ」「まだできていないのか」などといった言い方をすると、部下との信頼関係が崩れてしまします。そこで、・のような前置きを置いてから、励ますように催促するというのが上司の心得でしょう。
・は仕事の進行を確認しながら、作業の進行を急がせるときの言い方ですが、その時も「ご苦労様」とか「がんばっているね」とか「忙しそうだね。がんばれよ」とか、部下をねぎらう言葉を忘れないようにしましょう。上司のこんな何気ない一言が、部下にはうれしく、また励みになるものです。
(2) 上司への催促
<会社決定を急がせる>
李 :課長、A社との契約の件ですが、もう会社の裁定は下りましたでしょうか。
課長・:それが、まだなんだ。僕も早く結論を出して欲しいと言ってるんだけど。
李 :先方からは矢のような催促が来ているんですが、・・・。
課長・:わかった。もう一度、部長に事情を話してみる。
李 :よろしくお願いいたします。
<期限を切って催促する>
李 :課長、先日のお渡しした企画案に目を通していただけたでしょうか。
課長・:ごめんなさい。まだなの。
李 :ご無理を言って申し訳ありませんが、明日、企画チームの会議がありますので、今日中にお願いできないでしょうか。
課長・:わかりました。
李 :では、よろしくお願いいたします。
常套表現と解説
・ 課長、○○の件ですが、もう会社の裁定は下りましたでしょうか
課長、先日のお渡しした○○(企画案・報告書…)に目を通していただけたでしょうか
・ ご無理を言って申し訳ありませんが、○○日までにお願いできないでしょうか
上司に対する催促ですから、内容は催促でも言葉はあくまでも依頼口調で敬語を正しく使って話しましょう。また、その際、急がなければならない事情を上司に正確に伝えることが大切です。
2、 取引先への催促
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(1) 打ち合わせ内容の進行の催促
李 :先日お願いしました○○の件ですが、そのどうなっておりますでしょうか。
取引先:ええ、今、上司とも検討中ですが、一両日中にはいいお返事がさし上げられるのではないかと思っております。
李 :ありがとうございます。では、お返事をお待ちしております。
(2) 返事の催促
李 :あのう、催促がましくて誠に恐縮なのですが、○○の件、確か今週中にお返事いただけるとのことだったと思いますが、・・・。
取引先:あっ、連絡が遅れまして、申し訳ございません。
李 :いいえ、あのう、それでどのような結論になりましたでしょうか。
取引先:それが、まだ検討中でございまして、・・・。
李 :そうですか。それで、目途としてはいつごろになるでしょうか。
取引先:もう、二、三日お待ちいただけませんか。
李 :では、そのころもう一度お電話さし上げますので、よろしくご検討をお願いいたします。
(3) 支払いの催促
李 :昨日がご入金いただくお約束の日だったと思いますが、何か手違いでもございましたでしょうか。
取引先:申し訳ありません。近日中にはなんとかいたしますので・・・。
李 :誠に申し上げにくいことなのですが、上司は入金がこれ以上遅れるような会社には、もう納品しないと申しておりまして、担当者として私も困っております。
取引先:申し訳ございません。今日中に振り込ませていただきますので、その旨お伝えください。
李 :では、よろしくお願いいたします。
(4) 支払い督促状の例
現在○○○○のお支払いが弊社にて確認できておりません。お支払いがお済でないお客様は、早急にお支払いをお願い致します。
また、お支払いの方法は、コンビニ、郵便、および銀行振込の払込取扱票をお持ちの方は用紙の支払期限が過ぎていても今回はお支払いができます。払込取扱票がお手元にないお客様は、下記口座にお振込をお願い致します。
なお、この、料金確認メールが届く前にお支払済みの場合はご容赦くださいますようお願い申し上げます。
常套表現と解説<br>
・ 催促がましくて、誠に恐縮なのですが
大変申し上げにくいことなのですが
・ 先日お願いしました○○の件ですが、そのどうなっておりますでしょうか
○○の件、確か今週中にお返事いただけるとのことだったと思いますが、・・・
○○日がご入金いただくお約束の日だったと思いますが、何か手違いでもございましたでしょうか。
・ よろしくお願いいたします
お返事をお待ちしております
よろしくご検討をお願いいたします
いくら催促とは言え、相手を攻めるような言い方をしたのでは取引先との関係が壊れてしまいます。最後まで丁寧で丁重な依頼調ではなしを勧めましょう。
そこで、前置きによく使われるのが、・のような丁重な前置き表現です。「催促がましくて、誠に恐縮なのですが」といっても内容が催促であることに変わりはありませんが、遠慮がちに用件に入っていくテクニックとして覚えておいてください。また、ここは「年度末に入金いただくとのお約束だったと思いますが、何か手違いでもございましたでしょうか」のように婉曲に内容に切り出している点に注目してください。この「何か手違いでも?」は応用度の高い言い回して、相手に非があってもそれを責めないで、相手を配慮し、相手側の事情を最初に尋ねる表現になります。その方が相手の胸にはずしんと来るのです。つまり、直接的な表現を避けて婉曲な表現をした方が、日本語らしくなりますし、また、ビジネス世界では適切です。
なお、話の終わりには必ず「よろしくお願いします」など、・のような依頼の言葉を付け加えることをお忘れなく。
3、 取引先への抗議の仕方
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(1)納品日・支払い日の延期を求める
<納品日の延期を求める>
李 :あのう、誠にご無理なお願いで恐縮なのですが、・・・。
取引先:何でしょうか。
李 :実は××××(商品名)の納期の件ですが、この度の△△の地震の影響で、工場からの出荷が軒並み遅れておりまして、それで、どうしてもお約束の日に納品するのが無理になりまして、・・・。
取引先:困りましたねえ。しかし、△△の地震の被害については私どもも承知しておりますし、いたしかたないこと思います。わかりました。その旨、上司の方に伝えておきます。
李 :ご迷惑をおかけいたしまして、どうも申し訳ございません。今後ともどうかよろしくお取り引き願います。
<支払い日の延長を求める>
李 :今日は折り入ってお願いしたいことがありまして、伺いました。
取引先:何でしょうか。
李 :実は貴社へのお支払いの件なのですが、今しばらくご猶予いただけないかと思いまして・・・。
取引先:うーん、困りましたねえ。入金の期限は守っていただかないと・・・。
李 :ご無理は承知の上で、そこを何とかお願いできないものでしょうか。
取引先:そう言われても私の一存では・・・。
李 :この通りです。・・・(頭を下げる)・・・
取引先:そちら様とは長いおつきあいでございますから、上司とも相談してみますが、それで、いつまでにお支払いいただけるのでしょうか。
李 :今月中には必ず入金いたしますので。
取引先:わかりました。上司とも相談の上、折り返しお電話差し上げます。
李 :なにとぞよろしくお願いいたします。
常套表現と解説
・ 誠にご無理なお願いで恐縮なのですが、・・・
折り入ってお願いしたいことがありまして、・・・
・ お支払いの件ですが、今しばらくご猶予いただけないかと思いまして・・・
××××(商品名)の納期の件ですが、○○日まで延ばしていただけないかと思いまして、・・・
・ ご迷惑をおかけいたしまして、どうも申し訳ございません。
今後ともどうかよろしくお取り引き願います。
なにとぞよろしくお願いいたします
ビジネスの世界で・のような前置きが使われたとしたら、十中八九、何らかの事情で納品や支払いなど、契約関係のことで問題が生じたことを表しています。
さて、納品や支払いの遅れを詫び、延期を求める側はあくまで低姿勢で話を進めなければなりません。依頼には「~てくださいませんか/~ていただけませんか」などの丁寧な依頼言葉もありますが、それでもまだ、要請・要求の響きが残りますから、このような場合は不適切です。そこで使われるのが、「~ていただけないかと思いまして」という言い回しで、ビジネスマンとしてぜひ使いこなせるようになって欲しい依頼表現です。
逆に、延期を求められる側は、すぐに「契約不履行」などと言って事を荒立てず、応えにくいことはその場では保留し、あるいは「そちら様とは長いおつきあいでございますから」のようにできるだけ協力したいと言うことを話すのがビジネスマンの知恵です。仮に断らなければならないときも、「誠に申し上げにくいことなのですが、上司は入金がこれ以上遅れるような会社には、もう納品しないと申しておりまして」のように上司からの伝言の形で伝えるのが一番よく、その方が印象が和らぐ効果がありますます。何より、あなたが会社の一担当社員の場合、冷たい断り方をして相手の恨みを買うのは得策ではありません。つまり、ビジネスでは最後まで断定的な言い方は避けた方がいいのです。
(2)契約不履行を抗議する
<納品の遅れを抗議する>
李 :今日が商品の納入のお約束の日だったはずですが、いったいどういうことなのでしょうか。
取引先:もう二、三日お待ちいただけませんか。
李 :それはあまりに一方的すぎます。こちらは予約のお客様から、「どうなっているのか」と強い催促を受けて、ほとほと困っております。これは当社の信用問題に関わります。
取引先:申し訳ございません。担当者とも相談の上、至急納品できるようにいたしますので。
李 :いつまでならできるのですか。
取引先:明日中には必ず。
李 :わかりました。必ずお約束をお守りください。さもないと、貴社とのお取り引きは今後できないことになりますので。
<支払いの遅れを抗議する>
取引先:あのう、お支払いの件ですが、もうしばらくご猶予いただくわけにはいかないでしょうか。
李 :ご無理はおっしゃらないでください。こちらは今月中にお支払いいただけるというお約束でしたから、一ヶ月お待ちしたのです。上司にこの話を持っていった私の身にもなってくださいよ。
取引先:ご無理なお願いであることは重々承知なのですが、もう一度だけご猶予いただけませんか。
李 :これ以上はもう私の力ではどうにもなりません。もし、お支払いいただけないのであれば、こちらといたしましては法的処置も考えざるを得ません。
常套表現と解説
・ お支払い(納品・お約束…)今日のはずですが、いったいどういうことなのでしょうか
再三の申し入れにも関わらず、お聞き届けいただけないのはどういうわけでしょうか
・ ご無理はおっしゃらないでください
それはあまりに一方的すぎます
私の身にもなってください
当社もほとほと困っております
当社の信用問題に関わります
・ 貴社とのお取り引きは、今後できないことになりますので
こちらといたしましては法的処置も考えざるを得ません
ビジネスの世界では契約をめぐるトラブルは付きものですが、相手に全く誠意が見られないときは抗議に移ることになります。そのときの最初の抗議の切り出しに使われるのが・のような表現です。もし、相手側が契約の履行の遅れについて様々な口実をつけた場合は、断固とした態度をとることが必要でしょう。・はそんなときの比較的ソフトな言い回しになりますが、その場合でも、強硬手段に出ることもあり得るということもほのめかし、・のような最後通牒を突きつけておいた方が効果的でしょう。それでも相手が契約を履行しようとしなければ、損害賠償などの法的手段を執ることになります。
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