双语阅读:【青春小说连载】春の夢(56)
小说《春之梦》发表于上世纪80年代,描写的是一位大学生的生活。父亲欠债而死,大学生哲之就流浪、打工,偿还所欠的债务。一只被钉到木柱子上的蜥蜴还活着,一直陪伴着他。还有他的爱情生活也激励着他生活。经过一年的奋斗,终于走出阴暗的生活。
四(14)
哲之は、それならばあの厚化粧は、実に見事に相応の年齢を暴き出しているのだと思っておかしくあった。
「可愛いこともあるんやけど、お天気屋さんやねん。この頃はお母ちゃんも、もう扱い方に慣れてしもたわ」
母は思っていたよりも元気そうだった。
「お前、痩せたで」
と母は言った。
「何があったんや?」
ひととおり仕事をすますと、哲之の横に坐ってそう問いかけてきた。
「何もあらへん。アパートにいてたら、なんや急ぎにお母ちゃんに逢いたなったんや」
「陽子さん、アパートに来ることあるんか?」
「……うん。ときどき食料を運んで来てくれる」
母の二重の目に見つめられて、哲之はいまの自分の言葉で、母はふたりのことを察しただろうと思った。
「お母ちゃん、あの陽子さんいう娘さん好きやわ。明るいし、優しいし、汚れたことがどこにもあらへん。ほんまにお前のお嫁さんになってくれるんやろか」
急須に湯を注いでを入れると、母は寿司屋で使うような大きな湯呑み茶碗になみなみと注いだ。そして両手で茶碗を包むようにして、茶柱にじっと目を落とした。
「お母ちゃんなァ、お父ちゃんが死ぬ二カ月くらい前に、お前と陽子さんとのことを言うたんや。もう結婚するて決めてるみたいやて」
「親父、どない言うとった?」
「初恋(はつこい)の人と結婚できたためしはない言うて、笑とったわ」
哲之は笑顔で母を見た。久し振りに、本当に久し振りに、哲之は心なごむひとときを味わっている気がした。
「初恋は中学生のときに無惨に破れたよ」
中学生のとき、野球部のマネージャーをしている女子生徒を好きになった。野球は嫌いだったが、その女生徒を目当てに入部したのだった。
「俺、ライトを守らされてなァ、フライを受ける練習をやらされたんや。その女の子が見てるもんやからあがってしもて、グローブで受けんと、おでこでボールを受けてしもた。その子、転げまわって笑とったわ。その子がマネージャーをしてたのは、ピッチャーをやってた高倉(かたくら)いうやつを好きやったからやねん。それが判ったから三日で、野球部をやめたった。先輩にほっぺたを三発殴られた。思い出すたんびにアホらして笑てしまうわ」
表通りからは車のクラクションの音が何度も聞こえて来た。にわかに人通りが多くなり、ざわめきが店を閉めた静かな小料理屋の中に響いた。
「ホステスさんが帰って行く時間や」
母はぽつんと言ってそれきり何を考えているのか、入れたお茶にも口をつけず黙り込んでいたが、やがて、
「ほんまは何があったんや?隠さんと言うてみィ」
と言った。
「何にもないがな。ほんまにアパートの階段でこけて打ったんや」
「あの取立て屋、それっきりか?」
「うん。それっきりや。まさかあの大阪の片いなかまで追っかけてくるかいな。あいつが俺やお母ちゃんを見つける頃には、三十万や四十万の金、ちゃんと貯まってるよ」
「べつに払わなあかんというお金でもないけど、お父ちゃんの借金であることは間違いないもんなァ……」
母は哲之に、二階の自分の部屋に泊まっていくように言った。戸締まりをし、調理場のガス栓を点検してから明かりを消した。調理場の大きな冷蔵庫の横に二階へ上がる急な階段があった。二階に上がると、狭い板の間にダンボール箱が積み上げられ、その横に襖が見えた。母は襖を開き、部屋に入って蛍光灯のスウィッチを入れた。ちゃんと床の間のある六畳の間で、母の匂いがした。
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