双语阅读:【青春小说连载】春の夢(55)
小说《春之梦》发表于上世纪80年代,描写的是一位大学生的生活。父亲欠债而死,大学生哲之就流浪、打工,偿还所欠的债务。一只被钉到木柱子上的蜥蜴还活着,一直陪伴着他。还有他的爱情生活也激励着他生活。经过一年的奋斗,终于走出阴暗的生活。
四(13)
「おかみさんや」
母は哲之に耳打ちし、
「息子ですねん。ちょっと用事があってきてもろたんですけど、まだ晩御飯食べてない言うもんやさかい板長さんに残り物をみつくろってもらいましてんん」
と少しうろたえた口調で「結城」の女主人に説明した。
「いやァ、大きな息子はんがいてはるんやなァ」
おかみはちらっと横目で哲之を見た。哲之が、
「御馳走になってます」
そう言ってから、母がお世話になりましてと言いかけると、おかみは哲之を無視して調理場で片付け物をしている女店員にタクシーを呼ぶよう命じた。哲之は四十二、三歳かなと、おかみの歳を推測した。
「横田はん、酒癖が悪なって、かなわんわ。落ちぶれるとあないなんねやろか」
石井が白い割烹着を脱いで自分の服に着換えながら、そのおかみに相槌(あいづち)を打っていた。
「店で飲む分は別にして、わざわざほかのクラブにまで付き合うてあげんでもよろしおまっしゃないか」
「そうかて。古いお馴染みさんやし、向こうは商売が左前になったこと隠してるさかい、急に冷とうでけへんがな。ブランデー三杯も飲まされて、酔っっぱろうてしもた」
「それまでにお銚子五本あけてはりましたよってに……」
おかみは、化粧(けしょう)も着物の柄も若作りで、若い頃はさぞかし美しかったことだろうと思わせる名残りを横顔のどこかに持っていたが、明るいところで正面から眺めると、厚化粧の分だけかえって実際の年齢よりも老けて見えているようだあった。老獪なものとあどけないものとが混じった顔の中に、なにやら精巧な人形に似た無機質な目があった。
「はよ食べなはれ。冷めまっせ」
おかみに言われて、哲之は赤だしをすすり、御飯を頬張った。おかみの口調には暖かいものがなかった。この人からただで店の残り物をよばれたくはないと哲之は思った。彼は食べ終わると、
「お幾らですか」
と訊いた。言い方に気をつかったつもりだったが、おかみはにわかに険しい顔つきになって、
「なんや、あんたお金払う気かいな。うちの板さん、お金貰うつもりで出したんとは違う筈やでェ」
と言った。それから店の前に停まったタクシーに乗って帰って行った。石井も女店員も帰ってしまい、哲之は母とふたりきりになった。
「難しそうなおかみさんやなァ」
「昔、芸者はんやったんや」
母はカウンターの上を拭きながら、ある大手の電鉄会社の名を言った。
「そこの社長のこれで、ここに店を持たしてもらいはったんやて」
哲之は母の立てた小指を見ていた。
「小さい時から水商売の世界で生きて来た人やろ。そのうえ一流どころの芸者から、そんな大尽のお妾さんになって、新地に店を出さしてもろて……。歳はとってるけど、世間知らずのねんねみたいなもんやねん。旦那が死んでからや、ほんまの商売を始めたんは。それまではお客さんもみんな旦那のつてできてくれてたんやもん」
「あの人、幾つやのん?」
「私とおない歳や」
「へえっ!ほな五十かいな」
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