双语阅读:【青春小说连载】春の夢(62)
小说《春之梦》发表于上世纪80年代,描写的是一位大学生的生活。父亲欠债而死,大学生哲之就流浪、打工,偿还所欠的债务。一只被钉到木柱子上的蜥蜴还活着,一直陪伴着他。还有他的爱情生活也激励着他生活。经过一年的奋斗,终于走出阴暗的生活。
五(5)
しばらくの沈黙(ちんもく)ののち、哲之は、磯貝晃一の苦しみをやわらげ、希望をもたらすための、最良の言葉はないものかと、自分の心と頭脳を力限りに巡らせた。彼は、他人の苦しみを自分の苦しみのように感じたのは初めてではないだろうかと思った。そして、そのことが不思議に思えた。他人の苦しみを、自分の苦しみとして向かい合えない人間というものを不思議だと思ったのだった。陽子の「あかんべえ」の表情が浮かび、キンの姿が浮かんだ。小堀を殺してやろうと、一瞬にせよ考えたことも心に浮かんだ。哲之は、考え考えしながら、喋り始めた。
父が死んで家業は崩壊した。信頼していた父の片腕だった男は、自分や母の知らないうちに会社の金を使い込んでいた。それも実に巧みに合法的に己の者にしてしまい、気づいたときはあとの祭りで、残ったのは父の借財(しゃくざい)だけだった。ならず者が押しかけて来て、自分と母を責めたてた。それで自分は大東市のはずれのアパートに隠れ、母はキタ新地の小料理屋に住み込みで働くようになった。けれども、ならず者は自分の居場所をつきとめて、一週間ほど人前に出られない顔になるくらい殴ったり蹴ったりした。あとの仕返しが恐かったが、自分は警察に男を訴えた。男は逮捕されたが、いつその仲間が仕返しに来るか判らない。自分もまたもっと遠い所に引っ越そうかと考えたが、どうしてもそのアパートから出ていけない事情があるのだ。
そこまで喋って、哲之は、いったいにこのことが磯貝にとって何だろうと思った。自分は何を伝えようとしているのだ。そう思案にくれて黙り込んだ瞬間、哲之は、磯貝の方が、もっと不幸というものを知っているではないか。磯貝の味わってきたものと比べたら、自分なんかまだまだしあわせだ。体も健康だし、母も生きている。しかも陽子という、他のどんな娘よりも魅力的な恋人がいる。自分はしあわせだ。自分はしあわせなのだ、と思った。哲之は磯貝を勇気づけようとして、逆に勇気付けられたことを知った。だがそれは一方で、哲之の心のある部分をいっそう沈ませた。
「なんで、そのアパートから出て行かれへんねん?」
と磯貝が訊いた。哲之は、キンのこのを話して聞かせた。聞き終えると,磯貝はゆっくりと身を起こし、目を大きくみひらいた。
「その蜥蜴、いまも生きてるのか?」
「うん。生きてる。きょう出かけに、水とクリムシをやって来た」
「なんで、釘を抜いたれへんねん?」
「抜いたら、死んでしまうかも知れへんやかない。何遍殺してしまうと思たかしれんけど、でけへんかったんや。暗がりの中で気がつけへんかったからとは言うでも、そんなめに逢わせたのは、この俺やもん」
「蜥蜴が、柱に釘で打ち付けられて、生きてられるもんかァ?」
「現実に生きてるんやから、しょうがないがな」
「それ、ほんまの話か?」
「嘘やと思うんやったら、見に来たらええ」
哲之は言った。磯貝が身を乗り出して、何か言おうとしたとき、ドアがあいた。鶴田が顔を覗かせてふたりを窺っていたが、磯貝の元気を取り戻した様子(ようす)を見て、
「磯貝さん、大丈夫ですか?」
と訊いた。言葉だけで、実際に少しも磯貝の体のことなど案じてはないといったものを如実にあらわしていた。
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