双语阅读:【青春小说连载】春の夢(71)
小说《春之梦》发表于上世纪80年代,描写的是一位大学生的生活。父亲欠债而死,大学生哲之就流浪、打工,偿还所欠的债务。一只被钉到木柱子上的蜥蜴还活着,一直陪伴着他。还有他的爱情生活也激励着他生活。经过一年的奋斗,终于走出阴暗的生活。
五(14)
哲之は、明け方近くまで目を開けていたが、うっかり目を閉じてかすかな涼気を足の先や肩口に味わっているうちに眠ってしまった。目醒めたのは十二時を少し廻ったときで、磯貝の姿はなかった。彼は慌てて顔を洗い歯を磨き服を着ると、
「ちょっと待っとけよ。すぐに帰ってくるからな」
そうキンに言ってアパートの階段を走り降り、夏の日盛りの道を急いだ。両脇は雑草の生い茂った空地が続いていた。いつも、公衆電話のボックスに歩いて行くのは夜だったから、街路灯ひとつない道の両脇にいったい何があるのか哲之には判らなかったが、その日初めて、彼は延々とつづく道が、何かの工場の広大な空地に挟まれていることを知った。錆びた鉄骨が等間隔に立っていた。そのうちの一本に赤いペンキ文字で(山岡工業の計画倒産を糾弾(きゅうだん)する)と書かれていた。痩せたひまわりが、咲き終わったのかこれから咲こうとしているのか判別できかねる弱弱しい半開きの花弁をつけて弓なりにしなっていた。哲之は、公衆電話のボックスに辿りついてから、今は昼間なのだから、何もここまでこなくても、アパートの近くの雑貨屋に赤電話があったのだと気づき、汗をぬぐいつつ舌打ちをして太陽を見た。
公衆電話のボックスの中は、あたかも室のようで、受話器は熱して長く持っていられなかった。蚊の死骸が、消しゴムの屑(くず)みたいに、電話帳を置く棚の上に溜まっていた。陽子はいなかった。きょうは少し遅くなるかも知れないと言ってかけて行ったと、陽子の母は伝えた。
「ことしの夏休みは、アルバイトはせえへんのですか?」
哲之が訊くと、陽子の母は、
「ええ、そのようですよ」
と答えた。その口振りで、哲之ははっきりと何か自分に対して隠し事があるのを悟った。彼はアパートの部屋に戻り、冷たい牛乳を飲んだ。自分以外の男が、陽子の周辺にいるとしか考えられなかった。それ以外、陽子と陽子の母が自分に隠さなければならぬ事柄はない筈だった。哲之は胸苦しくなり、じっとしていられなかった。ほとんど無意識に、哲之はコップに水をいれ、スプーンを片手にキンの傍に行った。
「キン、クリムシばっかりで、もう飽きたやろ?たまにはコオロギとか、蝶々の幼虫とかを食べてみたいと思えへんか?」
哲之はキンが舌を出そうとしなくなるまでいつまでもクリムシを与えつづけてから、いま自分はピンセットを使わずに、クリムシを指でつまんでキンの鼻先に差し出したと気づいた。キンは、もうまったく自分を恐れていない。そう思うと同時に、自然に彼の指はキンの頭や下顎やらを撫でていた。キンはあばれなかった。まるでそうされることを待ち受けていたかのように、哲之の指先での愛撫に身をゆだねていた。哲之は哀しくなった。人間の愛撫を許さざるを得ないキンが哀しかった。押入れを開き、道具箱から切り出しナイフを出した。キンを殺そうと思った。素早く首を切り落としたら、キンは苦しまずに死ぬだろう。哲之は切り出しナイフをキンに近づけた。
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