双语阅读:【青春小说连载】春の夢(72)
小说《春之梦》发表于上世纪80年代,描写的是一位大学生的生活。父亲欠债而死,大学生哲之就流浪、打工,偿还所欠的债务。一只被钉到木柱子上的蜥蜴还活着,一直陪伴着他。还有他的爱情生活也激励着他生活。经过一年的奋斗,终于走出阴暗的生活。
五(15)
「キンちゃん、俺は来世は蜥蜴になるよ。蜥蜴になったら、もう二度と人間にはなられへんやろ。人間に生まれる原因を作ることなんか、蜥蜴に出来っこないもんな。いっぺん蜥蜴になってしもたら、もうそれこそ永遠に蜥蜴のままや。陽子には他に好きな男が出来たんや。きのうの陽子の顔に、ちゃんとそう書いてあった。陽子は嘘をつくの、へたくそやから、あいつ、俺に逢いに来たんや。俺は親父の借金を、これから何年間も毎月返済していかんとあかん。お袋も、お天気屋の芸者あがりのおかみさんににき使われて、命をすり減らすやろ。楽しいことなんか何にもあらへん。あの小堀も、刑務所から出たら、俺に仕返しをするにきまってる。キンちゃんが生きてたら、俺は辛いだけや。キンちゃんは、生きてることで、俺に仕返しをしてるんや。俺もキンちゃんも死んでしもたらええんや」
喋っているうちに、哲之は本当にキンを殺して自分も死のうと考え始めていた。風ひとつないアパートの一室の熱気が、刻一刻と自分を別の人間にしていくような気がした。陽子のあのふくよかな微笑を喪うことは、同時に自分から幸福の根源が消え去ってしまうのと同じなのだと思えた。死ぬ理由などないに等しかった。哲之は、自分を取り巻いている不幸など、他の苦しみつつ生きている多くの人々から見ればじつに馬鹿げたことであるのを知っていた。けれども哲之は死にたいと思った。暑さが、眼前のキンの姿が、もはや遠くにある陽子の心と体が、たいした額でもない借金が、哲之の右手に持った切り出しナイフの刃先(はさき)に集まって、さあ早く、さあ早くと誘っていた。
「お前なんか死んでしまえ」
哲之はキンに向かって叫んだ。キンが突然もがいた。釘づけにされているのに、柱をよじのぼるぼろうとして手足を懸命に働かしていた。首を左右に振り、しっぼを、どぶ川の中のボウフラのようにくねらせた。哲之は泣いた。泣きたくもないのに泣いてみたのである。すると本当に涙が出て来た。哲之は切り出しナイフを畳の上に投げ捨て、部屋から走り出て階段を降り、さっきの道を駆けて行き、雑草の群落(ぐんらく)の中にわけいった。セイタカアフダチソウの黄色い花粉が、舞い上がり、蚊やハエや名も知らぬ羽虫が、磁石に吸い寄せられる鉄粉みたいに浮上した。猛烈な暑さが、哲之の首のうしろと背を焼いた。バッタがズボンの膝の部分に飛びついた。彼はそれを片方の掌の中に入れた。何かが顔に当たった。哲之にはそれが巨大に変異したノミのように思えた。彼はその見事な跳躍力を誇示する昆虫を追って草叢にもぐり込んだ。哲之はその昆虫をつかまえるのに十分近くかかった。やっと掌で押さえつけた昆虫が間違いなくコオロギであることを確かめてから、彼は道に出た。左手にバックを、右手にコオロギを大事に包み込んで、哲之は何度もくしゃみをしながら、とぼとぼと帰って行った。
「おいしい方はあとから食べるんや」
そう言って、先に、まだ小さなバックをキンの鼻面に持っていった。キンがバックをその舌に絡めたのは、二、三分たってからだった。クリムシを入れてある箱にコオロギをしまうと、哲之は服を脱いだ。先月、電気屋の主人に頼んで安く売ってもらった新品だが型の古い洗濯機に、身にもとっているものをすべて投げ入れた。額や首筋にセイタカアワダチソウの花粉とか羽虫とかがこびりついていた。それは耳の穴にもへその穴にもいり込んでいた。彼は濡れタオルで丹念に拭き取り、パンツだけ穿くと、自分の食事の用意にかかった。キンを殺そうという考えは消え、自分も死のうという思いも忽然と去っていた。それに取って代わって、陽子を断じて奪われまいとする強固な意志が、哲之の心のすべてを占めていた。食事を終え、キンにもう一度水を与え、霧吹きでたっぷりとその体を湿らせてから、哲之はアパートを出た。駅までの一本道を歩きながら、磯貝に言った言葉を思い出した。――俺はこの世のことしか覚えてない。この世は一回きりで、前も後もあらへん。死んだら、それで何もかもおわりやーー。自分の指先の愛撫に身をゆだねたキンの、哀しみに満ちた姿は、なぜかその言葉を無言で否定したものであったように感じた。
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