双语阅读:【青春小说连载】春の夢(74)
小说《春之梦》发表于上世纪80年代,描写的是一位大学生的生活。父亲欠债而死,大学生哲之就流浪、打工,偿还所欠的债务。一只被钉到木柱子上的蜥蜴还活着,一直陪伴着他。还有他的爱情生活也激励着他生活。经过一年的奋斗,终于走出阴暗的生活。
六(2)
哲之はこのホテルにアルバイトで働くようになってまだ五カ月もたっていなかったが、高校を出ただけの社員と、大学卒の社員との間に、昇給の点でも大きな差があることを知っていた。鶴田は哲之とおない歳だったが、高校しか出ておらず、もし哲之がこのホテルに就職したら、三年もすれば自分が哲之に顎で使われる立場になるのを予測しているのだろう。哲之はそう考えた。そうなると、哲之に対して何やかやといやみを言ったり、ずるく立ち廻って来た鶴田は、予想もしていなかった報復が帰って来るのではないかと心配しているのだ。
「まあ、九分九厘(きゅうりん)、このホテルに就職しようかと思てるんですけどね」
五分五分というのが本音だったが、哲之はわざとそう言った。そう言っておけば、これからの鶴田の自分に対する態度が変わるだろうと思ったのだった。
「俺は、やめた方が、井領くんのためやと思うけどなァ……」
鶴田はそう言って扉を閉めた。哲之はどうでもよかった。いま彼の心の中は陽子のことがすべてを占めていた。もし、陽子に、自分よりも好きな男が出来て、すでにその男の胸に、あの美しい体を擦り付けていたら……。そう考えると、哲之は胸がふさがるような思いで、頭をかかえてロッカールームのリノリュウムの床にうずくまってしまいそうになるのだった。その日の、哲之が部屋に案内した客はみなチップをくれた。そんなことは初めてで、彼は硬貨(こうか)で重くなったボーイ服のズボンを、音がたたないようずっと押さえてロビーに立っていた。
仕事を終えると、哲之は阪急電車に乗って、武庫荘駅で降りた。駅の時計は九時四十分をさしていて、遅くなるといっても、もう帰っている筈だと考え、駅前から陽子の家に電話をかけた。けれども陽子はまだ帰宅していなかった。彼は住宅街のほぼ真ん中にある陽子の家の前まで行き、電柱に凭れて、陽子の帰りを待った。一時間が過ぎた頃、タクシーが停まって、陽子が降りて来た。哲之は去って行くタクシーに目を凝らした。客席には誰もいず、陽子がひとりで帰って来たのを確認して、彼は少しほっとした。小走りで家の前に来た陽子が、哲之に気づいて足を停めた。
「どうしたの?哲之……」
「どうしたの?陽子……」
哲之は、陽子がタクシーを降りて小走りで家に近づいて来たときの身のこなしや、自分に気づいた瞬間の表情で、予想がまず間違いないものであることを悟ったのだった。
「いつまでも隠してても、しょうがないやろ?どっち道、結論を出さんとあかんねんから」
陽子はただ無言で哲之の顔を見つめるばかりだった。
「どんな人や。俺とおんなじ学生か?それとも俺よりずっとおとなの金持か?」
それでも陽子は口を開かなかった。哲之は電柱に凭れたまま訊いた。
「きのう、俺と別れて、その人とどこへ行ったの?」
「映画を観たの」
「これから?」
「食事をして、帰って来た……」
「きょうは?」
「京都へ行ったの」
「その人のことを好きになったんやな」
陽子は目をそらせ、小声で言った。
「もし、哲之と結婚せえへんのやったら、その人と結婚したいなァって思う」
「そんなややこしい言い方をするなよ。それは、俺よりも、その人と結婚したいということやないか」
陽子はかぶりを振った。
「そうと違うの。哲之と結婚せえへんのやったら、その人と結婚したなァって、私、そう思てるの」
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