双语阅读:【青春小说连载】春の夢(80)
小说《春之梦》发表于上世纪80年代,描写的是一位大学生的生活。父亲欠债而死,大学生哲之就流浪、打工,偿还所欠的债务。一只被钉到木柱子上的蜥蜴还活着,一直陪伴着他。还有他的爱情生活也激励着他生活。经过一年的奋斗,终于走出阴暗的生活。
七(1)
デパートの釣具売り場でクリムシを買ってから、哲之は地下鉄で本町まで行った。彼は、陽子の口から、哲之以外にもうひとり好きな男がいるということを聞いて以来、ずっとホテルでのアルバイトを休んでアパートの一室に閉じこもっていた。何度、呻き声を洩らしつつ、畳の上でのたうったか判らなかった。二十日も休むと、アパート代はおろか、日々の食費にもこと欠くようになり、哲之は電話で中沢雅見に金を貸してくれと頼んだ。夏風邪をこじらせてずっと体の調子が悪く、働けなかったのだと嘘をついて、中沢をしぶしぶ承知させたのである。
ビル街を歩いて行くうちに、雨が降って来た。はるか遠くで雷の音がした。雨足は早く、たちまち豪雨とも言えるほどに、烈しい音をたてて路面を打ち始めた。哲之は雨に濡れながら、うなだれて歩いた。この雨で、夏が終わりそうな気がした。早く秋になって欲しかった。彼は秋が来るまで、空に鰯雲は浮かぶ日まで、陽子とは逢うまいと決めていた。その頃になれば、陽子の中にもひとつの結論が生まれることだろうと思っていたのだった。
びしょ濡れの哲之を見るなり、中沢はテープデッキのスウィッチを切り、
「お前、風邪をこじらせたいうのに、そんなに濡れたらまたぶり返すぞォ」
と言った。そして用意してあった金を手渡してくれた。
「俺に借りるより、甲斐甲斐しい世話女房がおるやろ」
そう中沢は言ったが、哲之は黙っていた。濡れた服やズボンを脱ぎ、タオルを借りて頭や顔を拭いた。それから、哲之はレディ?ジェーンを聞かせてくれと言った。
「えらい気に入ってるんやなァ。俺はもう聞き飽きて、ジャケットを見るのもいやや。勝手に聴けよ」
中沢はベッドに仰向けになり、レコード盤を並べてある棚を指差し、右端から四枚目にある筈だと教えてくれた。哲之は、これまで何度聴いたか見当もつかないレディ?ジェーンのサックスの響きに耳をそばだてて、母のことを思った。母が一日一日命を縮めて生きているような気がした。中沢の枕元に歎異抄が置かれてあるのを見て、いかにも中沢の読みそうな本だなと思った。
「この何百枚のレコードも、その歎異抄もお前にとったら、おなんじ物なんやろなァ」
と哲之は言った。
「歎異抄、読んだことあるのか」
「東洋哲学の講義で、無理矢理読まされた。『歎異抄を読んで』っちゅうテーマでレポートを提出したら単位をくれるいうから、邪魔臭い試験を受けんですむと思て読んだんや」
「親鸞は凄いなァ、だんだん凄さが判ってきた」
「どこが凄いんや」
中沢は歎異抄を開き、ページをくって、その一節を声に出して読んだ。
「いづれの行もおよびがたき身なれば、とても地獄は一定すみかぞかし」
「それのどこが凄いんや。俺は歎異抄を読んで、生きてることがいやになったよ。人間から生命力を奪う言葉の集積や。人間に、それほどまでに諦観は、結局自分自身が敗北(ばいぼく)者やったんや。いずれはこのビルが自分の物になる金持のボンボンが、とても地獄は一定すみかぞかし、とは笑止千万や」
「えらい絡むやないか」
中沢の顔に、滅多に見せない不快感があらわになった。柱に釘づけにされたまま、いまも行き続けているキンの姿が哲之の心の中でにわかに不思議な光彩を放ち始めた。
「親鸞て、ほんまにこの世に存在したんか?」
哲之のその言葉で中沢は身を起こし、
「お前、アホか。日本史を読んだことないのか。そら歎異抄は、親鸞の言葉をあとから弟子の唯円が書き留めた書や。鎌倉(かまくら)初期の僧で、千百七十三年に生まれて、千二百六十二年に死んだ。幼名は松若丸。慈円の門に入って、のちに法然の弟子になった。歴史の本に明らかやないか」
「歴史なんて、あとからどないでも好きなようにでっち上げられるよ」
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