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双语阅读:【青春小说连载】春の夢(82)

时间:2011-12-27 15:01:42  来源:可可日语  作者:dodofly

  小说《春之梦》发表于上世纪80年代,描写的是一位大学生的生活。父亲欠债而死,大学生哲之就流浪、打工,偿还所欠的债务。一只被钉到木柱子上的蜥蜴还活着,一直陪伴着他。还有他的爱情生活也激励着他生活。经过一年的奋斗,终于走出阴暗的生活。

七(3)

  哲之は濡れた服を着、ズボンを穿いて、クリムシの入った箱を持つと中沢の部屋から出た。雨はまだ烈しく降っていた。彼はしばらく中沢第二ビルの玄関に立っていたが、やがて再びうなだれて、地下鉄の駅に歩いて行った。歩きながら、陽子から借りたままになっているロレックスの時計を見つめた。朝、ミルクをコップに一杯飲んだだけで、もう夕暮れ近いというのに、それ以後何も食べていなかった。この時計を陽子に無断で質に入れたら、自分は泥棒になる。哲之ははそう思った。地下鉄の改札口のところにある赤電話に、彼はほとんど無抵抗で歩み寄り、陽子の家のダイヤルを廻した。陽子の声が聞こえた途端、哲之はその場に崩れ落ちそうになった。必ず返すから、ほんの少しの間、ロレックスを質に入れてもいいかと訊いた。
 
 「どうしたの?お金がないの?」

 陽子の問いに、哲之は、アパートの部屋代にあてる金が少し足らないのだと答えた。

 「哲之、お腹が減ってるんでしょう。お腹が減ってるときの喋り方よ」

 彼は黙っていた。どう誤魔化そうかと考えるのだが、陽子には一度も嘘をつきと押せたためしがなかったので、言葉が出てこないのだった。

 「ホテルでちゃんと夕食が出るんでしょう?」

 「すっとアルバイトを休んでるから……」

 「いま、どこ?」

 「本町や。中沢に金を借りに来たけど、ちょっと御機嫌をそこねさせて、借金に失敗した」
 いま行くから、国鉄の東口で待っているようにと陽子は言った。

 「いやや。陽子とはもう逢いとうないんや」

 心とは反対のことを言って、そのくせ哲之は電話を切らずに陽子の次の言葉に耳をそばだてた。

 「私、いまから行くから……。東口よ」

 電話は陽子の方から切った。陽子に逢える、そう思っただけで、哲之は生き返る思いがした。けれども、自分の見たことのないひとりの男の姿が、胸に描く陽子の容貌の隣にあって、彼の心に、野良犬が雨にうたれたみたいになっている、顔色の悪い貧相な自分を、いま陽子の前にさらけ出したくはないという思いが走った。きっと陽子は、夕食を御馳走してくれ、自分が貰ったお小遣いの半分か、あるいはそのすべてを俺に無理矢理受け取らせるだろう。だが陽子は、まだ俺のもとに帰ってはこない。まだ揺れ働いていて、陽子は二者択一しなければならぬ自分に苦しんでいるのだから。哲之は切符を買おうとして自動券売機の前で、ポケットの硬貨をさぐった。本町から梅田まで一区間だったが、どのポケットをさぐってみても十円足りなかった。彼は無意識に券売機の並んでいる周辺に目を走らせた。ひょうっとして十円玉が落ちてはいないものかと思ったのである。

 雨の降る御堂筋に出ると、彼は梅田に向かって歩いた。わざとゆっくり歩いた。陽子は急げば三十分で国鉄の東口に着くだろう。そこに俺が着ていなかったら十五分ほど待ち、「いやや、陽子とはもう逢いとうないんや」という俺の言葉は本気だったのかと解釈して、帰ってしまうに違いない。哲之はそう考えて、ゆっくりゆっくり足を運んだ。それならば、何も雨にうたれて本町から大阪駅まで行かなくてもいいではないかという思いがあった。耳たぶからも、鼻の先からも、顎からも、雨の雫が伝わって落ちた。ポケットからハンカチを出して顔をぬぐおうとしたが、ハンカチも服やズボンと一緒に濡れそぼっていた。淀屋橋を過ぎて梅田新道の近くまで辿り着いたとき、

 「入りませんか」

 と若い会社員らしい男がうしろから傘を寄せてくれた。

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