双语阅读:【青春小说连载】春の夢(98)
小说《春之梦》发表于上世纪80年代,描写的是一位大学生的生活。父亲欠债而死,大学生哲之就流浪、打工,偿还所欠的债务。一只被钉到木柱子上的蜥蜴还活着,一直陪伴着他。还有他的爱情生活也激励着他生活。经过一年的奋斗,终于走出阴暗的生活。
八(5)
「いいえ、お客さまがお越しになるなんて、一年に一回あるかないかの寂しい暮らしをしておりますので、嬉しくて、お電話をいただいたあと、気が高ぶってしまいました」
体つきや身のこなしは確かに老婆のそれだったが、喋り方には矍鑠たる者があった。陽子は哲之を紹介し、ドイツ人夫妻を紹介した。
「沢村千代乃でございます。ようこそいらっしゃいました」
老婆ガ自分の名を名乗ったとき、哲之はドイツ人夫妻の名前をまだ知らないことに気づいた。ドイツ語会話の本を開き、「あなたのお名前?」と言う項をふたりに示した。夫妻は自分たちもまだ名乗っていなかったことに気づいた様子で、自分紹介しながら、沢村千代乃と言う老婆と握手をかわした。ふたりの名の方はよく聞き取れなかったが、姓の方は判った。それで哲之は沢村千代乃に、
「何とかランダさんです。ぼくらもドイツ語が判りませんので、苗字がラングらしいとしか聞き取れません。そやけど、とにかく要するにランダさん御夫妻です」
と説明した。
「どうぞ御遠慮なくおくつろぎ下さいませ」
沢村千代乃は異国の夫婦にそう言って不意の客四人を自分の屋敷内に導いた。
「沢村さんは京都の方じゃないんですか?」
と哲之は訊いて見た。
「東京暮らしの方が長かったものですから。でもときどきの日の気分で京都弁を使ってみたりすることもございますのよ」
陽子の言ったように、二百坪以上はあるだろうと思われる平家(へいけ)の、漆喰壁と檜の太い柱によって、簡素でありながら一種の荘厳(しょうごん)さを感じさせる外観を形造っている屋敷が、松や椎の古木(こぼく)の間から見えてきた。
「庭は二千三百坪ございますの。私は樹や花が勝手気ままに生えております庭の方が好きだったのですが、亡くなりました主人が、わざわざ遠くから小堀遠州流の庭師を呼んで造らせましたの。あの一段高くなって降ります芝生の向こうを下さりますと巽の池がございまして、その横に茶室の場所になっております。主人がなくなってからは使う者もなくなりましたので、いまは私のお昼寝の場所になっております」
老婆は相手が日本語を理解できないことなどまったく意に介していないのか、自分より七、八歳若い、身なり正しい外国人にそう話して聞かせた。ドイツの夫の方が独和辞典を開き、単語を指差した。「寺」と言う単語だった。哲之は首を振り、ドイツ語会話の本の中から、「これは彼女の家です」と言う言葉を捜し出して夫妻に示した。ふたりは感嘆の声をあげた。ヘリを苔に巻かれた円形の飛び石の上を歩いて玄関のところに辿り着いたとき、ラング夫妻が「テツ」と言って哲之を呼び止め、一枚の封筒を寄こした。約束のガイド料らしかった。彼は礼を言ってそれをポケットにしまった。百ドル札一枚にしてはぶあつい手ざわりで、哲之はひょっとしたらそれよりも多目に金を入れてくれたのかもしれないと思った。玄関にはふたりの女中が待っていた。ひとりは五十過ぎのよく肥えた女で、もうひとりは十八、九の表情のどこかに暗さを持った娘だった。沢村千代乃が四人に中へ入るよう勤めてくれたが、ラング夫妻は身振りで庭を観たいという仕草をした。
「ふたりきりで、ゆっくりなさりたいのでしょう」
沢村千代乃はそう言って、中年の使用人に、
「お茶室に御案内して差し上げなさい。あそこからだと池も見えるし、雪見燈籠の上にもみじの葉が落ちて、いい眺めですから」
と命じた。哲之はラング夫妻に自分の時計を見せ、いま十時過ぎだが、十二時にはここへ帰って来るようにと、身振りや辞書の単語を示しながら伝えた。ラング夫妻は大きく頷いて、陽子と哲之と沢村千代乃にまた握手を求めた。野鳥が広大な庭のあちこちに降りて、何かをついばみ、鳶が茶室の建っているあたりから飛び立った。ラング夫妻の姿が庭の高台から坂を下がって行ってしまうと、陽子と哲之は客室に通された。
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