双语阅读:【青春小说连载】春の夢(99)
小说《春之梦》发表于上世纪80年代,描写的是一位大学生的生活。父亲欠债而死,大学生哲之就流浪、打工,偿还所欠的债务。一只被钉到木柱子上的蜥蜴还活着,一直陪伴着他。还有他的爱情生活也激励着他生活。经过一年的奋斗,终于走出阴暗的生活。
八(6)
「毎年、お年賀状ありがとうございます」
老人は若い女中にたすけてもらいながら座蒲団に坐ると陽子の顔を覗き込むようにして軽く頭を下げた。
「初めてお遭いしたときと比べると、とってもおとなっぽくなられて」
「お婆さまもお元気そうですわ。前よりもお若くなられたみたいです」
陽子の言葉で、老人は笑って細いシミだらけの手を振り、
「気をつけて、できるだけ歩くようにしてるんですけど、それでもだんだん足が弱くなっちゃって」
と言った。雪原で佇んでいる二羽の鶴が描かれた掛軸のある床の間に小さな白磁の花瓶が置かれ、そこに白い椿が一輪ついていた。陽子は哲之を見てくすっと笑い目を伏せた。陽子は言葉では言えないことを、そういう形で老人に伝えたのである。わざと伝えたのか、それとも思わず知らずそんな仕草をしてしまったのか、哲之には判らなかったが、老人の視線を感じて笑い返すわけにもいかず、といってこれと言う話題も咄嗟には浮かんでこなかったのでポケットをまさぐり煙草を捜した。
「ラングさん、運がいいわね。こんな見事な、静かな庭は、京都中捜したって他にはあれへんもん」
と陽子は言った。
「さっき、亡くなった主人と申しあげましたけど、ほんと主人じゃありませんのよ」
沢村千代乃はそう哲之に語りかけてきた。
「名前は申しあげませんけど、この家を建てた人は、東京にちゃんと奥さまもお子さんもいらっしゃって、早い話が私はおめかけさんなんですよ。死ぬ三年前ぐらいからは、もうほとんど東京には帰らずに、ここで暮らしておりましたけど」
「はあ……」
哲之はただそう返事をして、老人の話を聞いていた。
「ですから、亡くなりましたとき、もう大変。とにかくこれだけの土地と屋敷でございましょう?あちらさんは自分たちが当然相続(そうぞく)すべきものだって仰って、裁判に持ち込もうとなさったんですけど、遺言状に、修学院の土地と屋敷はわたくしに譲るって書き残していってくれたものですから。でもこれだけのものを戴きしたら後がまた大変。相続税なんて、もう気が遠くなるような額で、よっぽど御本宅にお返ししようと思ったんですけど、どうにもきりもりがつかなくなったら売ればいいじゃないかって友人にさとされましてねェ……」
老人は突然話題を変え、
「あんな長く連れ添った御夫婦が、仲良く外国旅行をなさるなんて、といってもいいですわねェ」
と呟き、哲之と陽子の額を交互に見て微笑んだ。哲之は煙草の箱をポケットからですとき、一緒に、さっきラング氏から貰った封筒も取り出した。改めて触れって見ると、最初手にしたときよりも封筒の中身はさらに厚みがあった。
「ラングさん、俺に百ドルくれるって約束やったのに、この封筒、いやにぶ厚いなァ」
哲之がそう陽子に言うと、陽子は封筒を見て、
「十ドル札で十枚くれたのと違う?」
と言った。哲之は封を切ってみた。確かに札が十枚よりもっと多く入っていたが、どれも新しい百ドル紙幣であった。
「これ、どういう意味や?」
哲之はテーブルの上に封筒の中身を置いて、陽子と老人を見やった。それから紙幣を数えた。十枚どころではなかった。
「二千ドル以上あるぞォ」
陽子が封筒の中をもう一度覗いた。薄い紙が四つに折りたたまれ、そこにドイツ語でびっしりと何かが書き込まれていた。
「ラングさん、間違ったのよ。哲之に渡す封筒とこれとを」
百ドル札一枚しか入っていない封筒と、それが二十枚以上も入っているものを間違えることなどありえないと哲之は思った。哲之は、同じような不審気な表情でドル紙幣の束に目を落としている沢村千代乃を見つめた。哲之と老人の目が合った。しばらく見つめ合ってから、哲之は慌てて立ち上がった。それと同時に、老人の女中を呼ぶ声が、深閑とした屋敷内に響いた。
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