双语阅读:【青春小说连载】春の夢(100)
小说《春之梦》发表于上世纪80年代,描写的是一位大学生的生活。父亲欠债而死,大学生哲之就流浪、打工,偿还所欠的债务。一只被钉到木柱子上的蜥蜴还活着,一直陪伴着他。还有他的爱情生活也激励着他生活。经过一年的奋斗,终于走出阴暗的生活。
八(7)
哲之はよく磨き抜かれた長い廊下を走って、靴も履かず玄関から庭への道に出た。短く刈り込まれた芝生の先が足の裏を刺したが、彼は全速力でなだらかな緑の丘陵を走った。野鳥が驚いて飛び立ち、その囀りは固まり合って天高く昇った。巽の池と茶室が見えた。池は柔らかく輝き、茶室の壁と小さな彰子に黄色い雲みたいな光を反射させていた。彼は茶室の手前でつまずいて転び、したたかに腹を打った。
「ラングさん!」
と大声で呼んだ。茶室の開き戸を開け、四畳半に飛び込むようにして入った。東向きの簡素な座敷には、くぐりの上に大小ふたつの窓と北側の下地窓があり、そのすべての彰子を通って穏やかな光が満ち溢れていた。ドイツ人の夫妻はもとに足を投げ出し並んで坐っていたが、哲之に蒼白な顔を向けると、手に持っていたものを慌ててポケットにしまった。
「何をするつもりなんですか?庭を観たいのなら、窓を開ける筈でしょう?ポケットに隠したのは何ですか?」
哲之の日本語はラング夫妻にはまったく通じない筈だったが、ふたりは妙に清澄な目を、ともどもに哲之に注いで無言だった。さっきまでの微笑はなく、頬の血色も消え、あたかもあきらめきった病人のように力なく、そして幾分かの動揺を青い目にちらつかせて、哲之に見入っていた。哲之は夫妻の眼前に掌を広げて突き出した。ポケットにしまったものを出せと言う意思表示であった。だが夫妻は身じろぎひとつせず、ただ哲之を見つめ続けるばかりだった。
やがて誰かの走ってくる足音が聞こえた。陽子と、夫妻をこの茶室に案内した中年の女中だった。女中は、夫妻が無事なのを確かめると、また屋敷へ駆け戻って行った。陽子は北側の下地のところに正坐し、
「哲之も坐ったら?」
と言った。哲之は茶室の三つの窓をすべて開けた。沢村千代乃が杖をつき、若い女中に支えられて芝生の丘を下がって来た。そのうしろから、中年の女中が金の入った封筒を持ってついて来ていた。
「ぼくが茶室に入るなり、ふたりとも慌ててポケットに何かを隠しました。それを出せって言ってるんですけど……」
沢村千代乃は二千ドル以上もの新札が入っている封筒を、ラング夫妻の前に静かに置いた。
「言葉が通じるないってのは困ったものね」
そう誰に言うともかく呟いてから、若い女中に、
「熊井(くまい)さんに来ていただきましょう。家にいなかったら、会社の方に電話してみなさい。日曜日は、会社でまとめて雑用を片付けるって言ってましたから」
と言った。行きかけた女中に、
「簡単に事情を説明して、急いでお越し願いたいって伝えるんですよ。それから、あなたも、もたもたしないで走りなさい」
ときつい口調で命じ、中年の女中を手招きして呼んだ。
「久し振りにお茶でも点てましょう。すまないけど、火をおこして下さいな。それから、今焼きの赤茶碗を持って来てちょうだい。私の部屋の戸棚にありますから」
ふたりの女中がいなくなると、沢村千代乃は床の間の前に行き、香炉を手に乗せた。
「熊井ってのは、なくなったここの主の甥でございますの。いまは独立して小さな貿易会社をやっておりますけど、その前は商社に勤めていて、七年ほどドイツに駐在して下りましたから、このおふたかたと、ゆっくりお話が出来るでしょう」
「すみません」
その陽子のしおれた声に、沢村千代乃は笑顔で言った。
「陽子さんが謝ることなんかありませんよ」
そして身を固くして口を閉じたままのラング夫妻を見つめた。
「いまここには、謝らなきゃいけない人なんか誰もいないんです」
中年の女中が、おこった炭を運んで来た。釜にも水が入った。
「ほんのちょっとお香を焚きましょう」
その沢村千代乃の言葉で、哲之は窓をしめ、ラング夫妻に釜と向き合うよう促した。夫妻は素直に体の向きを変えた。
「このお香をずっと以前に、ある人から贈っていただいたものです。花橘っていう名高い名香でございますのでよ」
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