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双语阅读:【青春小说连载】春の夢(136)

时间:2012-02-16 14:52:24  来源:可可日语  作者:dodofly

提要:哲之若无其事地看着阳子。阳子也用可疑的面色看哲之。原因是刚才熊井对要看棺材里面泽村千代乃脸的老婆婆所说的话。

十(7)

「私、沢村のお婆さまからお年玉を送っていただいたんです。けさ、受け取ったものですから、お礼のお電話をおかけしたら、きのうの夜になくなられたと聞いて、もうびっくりして」
と陽子は言った。すると熊井は、
「二十日ほど前から風邪気味で、咳ばっかりしてまして、医者に診てもらうよう言ったんですが、本人は熱もないし大丈夫よって笑ってたんです。きのうの夕方、伯母の部屋から何かが割れる音がしたんで、女中が見に行くと、畳うずくまって苦しんでました。そのとき、もう唇は土色だったって女中がいってしました。救急車に運び込まれるまでは意識があったみたいですねェ。女中に何か言ったそうですから」
と話してくれた。
「何仰言ったんですか?」
哲之に問いに、熊井は首を振った。
「聞き取りにくくて、何を言いたかったのか判らなかったみたいです。それからあとは、息を引き取るまで、一度も意識を回復しませんでした。心不全というのが医者の診断です」
哲之はさりげなく陽子を見た。陽子も不審な面持ちを哲之に向けた。いましがた熊井が、棺の中の沢村千代乃の顔を見ようとした老婆に言った筈だった。故人が息を引き取る前に、自分の死顔は誰にも見せてくれるなと言い残した、と。哲之は理由を述べ、誠に申し訳ないが、あした葬儀には参列できないと伝えた。
「わざわざ通夜に起こしいただいたのですから、どうかお気遣いなさいませんように」
熊井はそう言って頭を下げた。美しいが、どことなく険のある顔つきをした熊井の妻は、始終無言で陽子の顔を見つめたり、哲之の古ぼけたジャケットや、河原町で買ったばかりの黒いネクタイに視線を注いだりしていた。親戚の者が到着したようで、女中が熊井に、
「金沢からお着きになりました」
と部屋の外から伝えた。熊井夫妻は立ち上がり、急ぎ足で部屋を出て行った。三人の足音が遠ざかった。哲之は棺に近づいて行った。
「哲之」
それを制しようとする陽子が声を殺して呼んだが、彼は棺の小さな開き戸をあけ、白い布をそっとめくった。鳥肌が立ち、思わず声をあげそうになった。そこに見たのは、色白で品位にあふれた泰然自若たる生前の沢村千代乃ではなく、肌の黒ずんだ、異様なほど苦悶に歪んだ、醜悪な死顔であった。右の目はきつく閉じられ、左の目は大きくみひらかれていた。しかしそれが別人ではない証拠に、唇の横に茶色いほくろと、若い頃の美貌の名残りを伝える沢村千代乃独特の形の良い鼻梁(びりょう)があった。
「哲之」
陽子が再び小声で呼んだ。長い廊下の向こうから足音が聞こえた。哲之は慌てて白布をかぶせ、棺の開き戸を閉めると、元の位置に坐った。指先が震え、心臓が大きく打っていた。熊井夫妻と、親戚の者らしい三人の男が部屋に入って来た。それを汐に、哲之と陽子は沢村家を辞した。
「なんか、気持の悪いお通夜やったわ。あの沢村のお婆さまのお通夜が、あんなに人の少ない寂しいもんやなんて、ちょっと不思議な気がする……」
タクシーの中で、陽子はそう言ってから、哲之の手首を強く握った。そして、
「私、はらはらしたわ。あの広いお屋敷、どこから人が部屋に入ってくるか判らへんのよ」

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