双语阅读:【青春小说连载】春の夢(157)
小说《春之梦》发表于上世纪80年代,描写的是一位大学生的生活。父亲欠债而死,大学生哲之就流浪、打工,偿还所欠的债务。一只被钉到木柱子上的蜥蜴还活着,一直陪伴着他。还有他的爱情生活也激励着他生活。经过一年的奋斗,终于走出阴暗的生活。
十一(8)
「俺はお前よりもはるかに宗教に対して敬虔(けんけん)や。天国とか浄土とかは、おそらく比喩やった筈や。その比喩が弁証法的に現実に存在するものとしてすり代わった。インテリは、それを裏の思想とか何とか言うてる。裏の思想て何や。結局、判らんからひらきなおっただけのことやないか。そやから俺は、親鸞を敗北(はいぼく)者というたんや。女犯に苦しむこと自体、アホな話や。セックスなんて、自然の摂理やないか。坊主が、それを犯したことを、偽善ぶって悟りに転化してるのを感動するのが、インテリという連中や。誰がどんな理論と弁舌でパラドックスを駆使(くし)しても、俺はやっぱり、親鸞を敗北者やと言いつづけるぞ」
中沢は言い返そうとして哲之の手首をつかんだ。けれども、哲之が、
「元気でな。さっき言うた恩返し、何かの形で必ずさせてもらうよ」
と屈託(くったく)のない笑顔を向けると、その手の力をゆるめた。
哲之は、雑踏を歩きつつ考えた。中沢雅見が自分に金を貸してくれたり、何日も部屋に泊めてくれたりしたのは決して友情によってではなく、ひとつは退屈しのぎであり、ひとつは人に何かしてやることで自分を満足させていたのだろう。けれども、おかげで助かったことが何度もある。中沢は拒否するに違いないが、いつの日か、俺は誠意をこめてお返しをしよう。早くそんな日が来ればいいのに……。さらに哲之は、激しい心で言ったのではないが、かと言って沈着な思考から発せられたわけでもない自分のひとつの言葉を思い浮かべた。――俺はお前よりもはるかに宗教に対して敬虔やーー。本当にそうなのだろうか。哲之は新聞紙やチラシの散乱する階段をゆっくり昇った。二月の風に身を縮めた。神と仏とはどう違うのだろう。聖書はひとつなのに、仏典はなぜ厖大な経に分かれているのだろう。キンを見ていると、確かに生命力とか蘇生力とかの巨大なエネルギーを、ノミもシラミもタンポポも、犬も虎も、そして人間も、すべて自分の中に有していることを知る。俺の体の中には、ゼンマイも、乾電池も入っていない。それなのに自由に手足が働く。心臓も働いている。血液が絶え間なく流れている。そして自分でもいかんともしがたい心と言うものが一瞬一瞬とどまることなく変化しながら生まれつづけている。それはじつに不思議な現実ではないか。しかも生き物はみんな死ぬのだ。なぜ死ぬのだろう。大都会の夕暮れの中で、さまざまなイルミネーションが働いていた。キンの釘を抜くときが近づいていた。哲之の視界いっぱいに、キンが見えた。それは蜥蜴ではなかった。蜥蜴の姿に身をやつした光り輝く生命というものの塊に思えた。清浄で、力強く、無限なるものを感じて歩を停めた。けれども、その至福の光景はまばたきひとつしただけで忽然と消えた。哲之はもう一度同じ歓びを呼び戻そうとして、空を見やったが、キンはもはやただの蜥蜴に過ぎなかった。
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