日本語文法『有生性』
有生性
有生性とは名詞が表す指示物が生命を持っているものかどうかを表す意義素です。例えばdog 「犬」は生き物ですので有生ですが、book 「本」は生き物ではありませんので非有生となります。言語学のなかではこのように名詞の有生性をどのように個別言語が捉えるかによって言語の表層での形式が異なってきます。ここでは日本語と英語の有生性について比較しながらより詳しく考えてみましょう。次の文をみてください。
(1)
a. There is a book on the desk.
b. There is a book on me.
c. I have a book.
d. The desk has a book.
存在を表す英文の表現には有生性が関係していると考えられます。英語では存在する対象と関りなく存在する場所を表す名詞が有生か非有生かどうかで「存在」を表す文を二種類の表現形式に分類しています。存在する対象物が非有生の名詞の表す場所にある場合は (1a) のようにthere構文を使ってあらわします。 (1a) は存在するものがa bookで存在する場所がthe deskで表されています。場所を表す名詞the deskは非有生ですのでthere構文が使われているのです。一方、 (1b) が非文法的になるのは場所を表す名詞がmeというように有生名詞であるからです。場所が有生名詞の場合は英語ではthere構文ではなくhaveを使って表現します。存在する対象を目的語の位置に置き存在する場所は主語の位置に置かれます。 (1d) が非文法的なのは場所が非有生の名詞the deskであるのにhaveという動詞を使って存在をあらわしているからです。このような英語の有生性の現れとは異なった日本語の有生性の文法における現れかたを考えてみましょう。次の例文をみてください。
(2)
a. 机に本があります。
b. トムにお金があります。
c. *机にトムがあります。
d. *トムに猫があります。
日本語の場合は存在する場所の有生性とは関係なく、存在する対象の有生性が文法と関ってきます。 (2c) が非文法的なのは存在する対象が「トム」と有生の名詞であるにも関らず動詞「ある」が使用されているからです。日本語は存在する場所が有生であるか非有生であるかは問題とならず、存在する対象が有生であるかどうかが問題となるのです。 (2d) も存在する対象である「猫」という名詞が有生であるために動詞「ある」と一致しないために非文法的と判断されてしまうのです。 (2) の非文を存在する対象である名詞の有生性にあわせると次のような文法的な文が生成されます。
(3)
机にトムがいます。
b. トムに猫がいます。
このように日本語と英語とでは名詞の有生性に関して文法の現れかたが異なってきています。英語の場合は存在する場所の有生性を問題にする一方、日本語においては存在する対象の有生性を問題とするのです。このような有生性にかんする違いは英語と日本語の別の個所にも生じます。
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