双语阅读:【青春小说连载】春の夢(58)
小说《春之梦》发表于上世纪80年代,描写的是一位大学生的生活。父亲欠债而死,大学生哲之就流浪、打工,偿还所欠的债务。一只被钉到木柱子上的蜥蜴还活着,一直陪伴着他。还有他的爱情生活也激励着他生活。经过一年的奋斗,终于走出阴暗的生活。
五(1)
大学は夏休みに入った。哲之の同級生の中には、すでに就職を決めてしまった者が何人もいた。いざとなったら、島崎課長が勤めてくれるように、アルバイト先のホテルに就職してしまえばいいという思いが、哲之から、真剣に自分の将来について考えをめぐらせたり、希望の職種の会社の採用試験に挑ませたりする意志を奪ってしまっていた。
哲之がいつものとおり五時ちょっと前に、ホテルの裏の従業員の出入口のところまで来たとき、排気孔から噴き出る汚臭を避けるようにしてホテルの建物に沿った歩道(ほどう)に立ち尽くしている陽子の姿を見つけた。夏の西陽を全身にあびて、陽子の体の片側は赤く染まり、それが陽子をひどくし寂しげに見せていた。陽子は小走りで道路を渡り、渡り終えるとそこで初めて笑顔を見せた。哲之は走ってくる車を縫って陽子の傍まで行った。
「どうしたん?」
哲之の問いに陽子はただ黙って見つめ返しただけだった。ふたりは路地を曲がって、一軒の喫茶店に入った。電話で話をするだけで、哲之が陽子と逢うのは一カ月ぶりだった。陽子は夏休みに入るまではずっと毎日大学の講義に出ていたし、哲之の休みの日には何やかやと用事があるらしく逢う機会がなかったのだった。小堀という取立て屋の一件以来、哲之は陽子にアパートには来ないように言ってあったから、彼は休日はいつも梅田で逢おうと誘ったが、そのたびに陽子の、母の使いでどこそこに行かなく手はならないとか、従姉に子供が生まれたので、洗濯やら掃除やらを手伝いに行ってやらなくてはならないとかの理由で逢うことが出来なかったのである。ボサノバの曲が流れる喫茶店の一番奥の席に坐って、哲之はそっと陽子の表情を窺った。そして、
「髪の毛、きったん?」
と訊いた。
「うん、暑苦しいから切ってしもたの」
「陽子のショート?ヘア、初めて見たなァ」
「私もこんなに短い髪にしたの、中学以来。哲之、こんな嫌い?」
「いや、よう似合うよ」
哲之はもう一度、
「どうしたん?」
と訊いた。
「哲之の休みの日には私に用事があったし、私に時間があるときは、哲之は仕事やし……」
この時間は、いつも哲之の一日にとって一番いやな時間だったが、彼は幸福を感じた。腕時計を見ると、大阪駅に着いたときに見たのと同じ四時四十分をさしていた。哲之は腕時計を外し、耳に宛がった。振ったり軽く叩いたりしたが時計は働き出さなかった。
「あーあ、とうとうこわれてしもた。安物やからな、こわれるのは時間の問題やったんや」
哲之がそう言って時計をテーブルの上に投げ出すと、陽子はハンドバックの中から男物の時計を出した。それは陽子の父の持ち物だった古いロレックスで、陽子がねだって自分のものにしたのである。陽子はいつもそれをハンドバックの中に入れていた。
「これ、貸したげる」
「ホテルのボーイが、こんな上等の時計をはめてから変に思われるよ」
「そやけど、時計がなかったら困るでしょう?」
そう言ってから、受け取ろうとした哲之の手からさっと時計を遠ざけると、冗談めかした口調で、
「質屋さんに持って行ったりしたらあかんよ」
と言った。哲之は笑いながらロレックスの時計を自分の手首につけた。
「陽子と結婚したら、これ俺のもんになるなァと、前から狙てたんや」
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