双语阅读:【青春小说连载】春の夢(94)
小说《春之梦》发表于上世纪80年代,描写的是一位大学生的生活。父亲欠债而死,大学生哲之就流浪、打工,偿还所欠的债务。一只被钉到木柱子上的蜥蜴还活着,一直陪伴着他。还有他的爱情生活也激励着他生活。经过一年的奋斗,终于走出阴暗的生活。
八(1)
老いたドイツ人の夫婦の、いったい何が入っているのかと思えるほどに重たいふたつのバッグを客室の入口に置き、一礼して部屋から出て一行とすると、夫人の柔らかな手で肘をつかまれた。ドイツ人の夫婦はどちらも英語が喋られないらしく、大仰な身振りで哲之に少し待ってくれと示していた。外国人の客からチップを貰ったことはなかった。ガイドブックでも、実際に日本を訪れた連中からも、日本ではメイドやボーイにチップをやる必要がないことを教え込まれている外国人は、わずか百円玉一個すら渡そうとはしなかった。夫婦はどちらも白髪で小柄で、優しそうな目をしていた。ふたりはドイツ語で何か相談しあいながら、ポケットをまさぐったり、財布の中に手を入れたりして困惑顔で肩をすくめた。そして一万円札を出し、申し訳なさそうに何か言った。ふたりのやりとりや顔つきで、哲之はこのドイツの人の夫婦が自分にチップを渡そうとしたのだが、あいにく一万札以外相応の硬貨の待ち合わせがなく、どうしたものか困っているのだということに気づいた。哲之は笑って手を振り、彼がたったひとつ知っているドイツ語を喋った。
「ダンケ?シェーン」
そしてもう一度礼をして部屋を出た。すると夫の方があとを追って来て、ふたつのバッグを持ってひょろひょろ歩く真似をし、それから哲之の肩を押さえて、ひとり小走りでエレベータのところへ行った。彼は一万円札をフロントでくずしてくるつもりらしかった。その心遣いだけで充分だったから、哲之は老人を制して、あまり正確とはいえない英語で、荷物を運ぶのは自分の仕事であり、チップは必要ないのだと説明した。老人の手にした一万円札を取り、哲之はそれをふたつに折って背広のポケットに返した。だが老人は頑固だった。とにかくここにいろと哲之に態度で示し、エレベーターがやって来るのを待っている。そうしているうちに部屋から夫人までが出て来て、夫に何か言った。突然、夫の方がオーと声をあげ、哲之の肩を抱いて喋りかけてきた。けれども哲之には皆目ドイツ語が判らないのである。夫人は笑みを浮かべて哲之を見つめている。哲之は、ふと調理部のコックの中に、三年ほどドイツのミュンヘンで働いていたことのある男がいるのを思い出した。彼は老夫婦に部屋で待っていてくれいてくれるよう促し、エレベーターに乗った。地下で降り、厨房への通用口をあけて、その鍋島と言う男を捜した。一番忙しい時間が過ぎて、コックから木の箱やら壁に凭れて煙草を吸っていた。大きな冷蔵庫の陰に腰を降ろして週刊誌のページをくっている鍋島を見つけると、哲之はその傍に行った。
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