双语阅读:《福尔摩斯之孤身骑车人》第7回
「あの娘さんは、段々に深みにはまってゆくらしいな、――」
ホームズは手紙を読み終ってから、考え深そうに云った。
「この事件は、最初に僕が考えたよりも、もっと興味があって、また面白く発展してゆくらしいぞ。僕も田舎の静かな、平和な日のために、一臂(いちぴ)の力を添えてやっても、毒にもなるまいから、――今日は一つ午後から出かけて行って、考えた理論を二つ三つやってみるとするかな」
しかしホームズの田舎における静穏な日と云うのは全く変な結末を見せたのであった。と云うのは彼は、夜おそくベーカー街に帰って来たのであったが、彼は唇には怪我をし、額には色の変った瘤を出かして云わば警視庁のお探ねものにもふさわしい、あのいつもの捕り手となる、放埓者(ほうらつもの)のような恰好をしていた。そして彼は自分の今日一日の冒険に、ひどく可笑しさを感じていたのか、底の底から笑いながら、一切の顛末(てんまつ)を語り出した。
「僕は少しばかり活溌な運動をやって来たんだが、いやはや全く、御馳走さまなことさ!」
彼は云った。
「君、僕は御承知の通り、英国のあの結構な古来の拳闘については、少しばかり心得があるんだが、君、あれは時々、とても役に立つ時があるよ。例えば今日なども、もし僕があの心得がなかったら、全くいいざまを見るところだったよ」
一たい何が起ったのか私は更に追求した。
「僕は先に君にも云った、居酒屋を見つけて、そこへ入って、細密な調査を始めたわけさ。僕は酒売台(さけうりだい)に陣地を取ったわけだが、ところがそこの主人は大変な饒舌(おしゃべり)で、僕のききたいことは、何もかもよく喋べってくれた。ウィリアムソンと云うのは、真白な髭を蓄えた人間で、ごくわずかな使用人共と、あの廃院に住んでいるんだそうだ。彼が坊さんであったとか、またあるとかと云う噂もあるんだ。ところがその短い間の廃院生活に起った、一二の事件を見ると、どうも坊さんらしくないと思われる点があるんだがね。それで僕は宗務管理所について調べて来たんだが、これと同じ名前で、その以前の経歴がはなはだ曖昧なのが、たしかにあったと云うのだ。それからなおそこの主人の云ってくれたのには、あの廃院には、毎週の終りに、会合があるんだそうだ。「とても景気のいい人達ですよ、壇那、――」と主人は云うんだがね。そのメンバーの中で、赤髭をした、ウードレーと云うのが、最も重要な御常連だそうだ。ところがどうだろう、――こんな話をしている中(うち)に、人もあろうに件(くだん)の紳士が入って来て、酒場でビールを引っかけていたのだ。もちろんこの一切の会話をきいてしまったのだから敵わない、――「貴様は一たい何者だ?」「何を調べているんだ?」「何のためにそんなことを訊ねているんだ?」と、全く雷でも落っこって来たように、まくし立てられてしまったわけさ。いや全く実に威勢のいい文句ばかり並べられたがね、遂に彼からは手の甲で一撃見舞って来てしまったんだが、僕は不覚にもそれはしっかり受けそこなってしまった。次の二三分はとても味があったよ。滅茶打ちに打ってかかる暴漢に、左の手で見事に一突がきまったわけさ。そして僕は抜け出して、再び君に拝顔の機を得たわけ、それからウードレー紳士は、馬車で御帰宅と云うことになったのさ。こうして僕の田舎旅も終ったが、なかなか面白いには面白かったが、しかし何しろいやはや全く、このサーレーの外れの遠征だけは、君の時よりももっと、だらしのない恰好でおめおめと帰って来たわけさ、ははははははは」
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