双语阅读:《福尔摩斯之孤身骑车人》第9回
夜通しの雨が霽(は)れて、ここにも太陽の輝かしい朝であった。荒野に蔽われた田園は、今ちょうど満開のハリエニシダの花が、方々に叢(むらが)り咲いていて、ロンドンの暗褐色(あんかっしょく)黄褐色(こうかっしょく)、――石板灰色(せきばんかいしょく)に、あきあきしている目には、とても素晴らしいものに見えた。ホームズと私とは、朝の新鮮な空気を吸いこみ、小鳥の音楽、四月の春の生々(いきいき)とした黄韻(こういん)を享楽しながら、砂の多い広い道を進んだ。路は上りになって、クルックスベリーの丘の肩のところに行ったら、我々は老樫樹の中から屹立している、厳めしい廃院を見た。もっともこの老樫樹は、もう老いたと云っても、その取り囲んでいる廃院よりは若いのであるが、――ホームズは、褐色の荒野と、芽のふき出ている緑の森の間をうねっている、赤味を帯びた黄色の帯のような、一条の道路を指した。はるか遠方にポツリっと見えた黒い一点、――それは我々の方に進んで来る乗物であった。ホームズは思わずも叫んだ。
「おや、三十分おそかった! もしあれが、あの娘さんの馬車だとすれば、あの娘さんは一列車早く発つつもりだったんだね。ワトソン君、俺たちが娘さんに出逢う前に、あのチァーリントンの森にさしかかってしまったら大変なことになるよ」
私たちが上り坂を越してからは、もうその乗り物の姿は見えなかった。しかし私たちはどんどん道を急いだが、私の元来の運動不足の職業が、今はしみじみと身体に答えて、いや応なしに私は、ホームズからは遅れてしまった。しかしホームズは少しも弱る様子がなかった。日頃練成していた精力が、全く驚くばかりであった。彼の跳ね返るような歩調は、決して衰えなかったが、私から百碼(ヤード)ばかりも先んじて行った彼は、ふと立ち止まった。そして彼が手を上げてまわすのを見たが、それは悲しみと絶望の相図であった。と、――見る中(うち)に、空(から)な二輪馬車が、手綱を引きずりながら、カーブを曲ってガタガタと音させながら、私たちの方に駈けて来るのであった。
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