双语阅读:《福尔摩斯之孤身骑车人》第10回
彼は全く乱心したような様子で走り出した。そしてピストルを片手に持って生籬の切れ目に突進して行った。ホームズはすぐその後から続いた。それで私も、道の傍らに馬を放して草を食ませたまま、ホームズの後に従ってかけた。
「彼等はここから出て来たんです」
彼はそう云いながら、泥の上にベタベタとついた足跡を指さした。
「おい、――ちょっと待て、――その籔かげに居るのは誰だ?」
そこに居たのは十七才くらいの、革のズボンをはいて、ゲートルをかけた、馬丁風の若者であった。そしてその者は、膝を縛り上げられて、仰向けに寝かされて、その上に額をひどく割られて、気絶して倒れていた。しかし生きてはいたが、私はちょっと見たところ、その裂傷は、骨までは徹(とお)ってはいないものだと思った。
「ああこれは馬丁のペーターだ」
この見知らぬ男は叫んだ。
「この男が彼の女の馬車を御して来たのですが、あの獣物(けだもの)連中は、この若者を引きずり降ろして、棍棒でやっつけたのだな。これはこのまま寝かしておきましょう。どうにも出来ませんから、――しかしまだ私たちは、彼の女の婦人として受ける、最大の悲しい運命から、救い出すことが出来るかもしれませんからね」
私たちは全く夢中で、樹の間をうねり曲って、小径をかけ下りた。そして私たちは、建物を取りまいている、灌木の所に出た時、ホームズは一同を引き止めた。
「奴等は家には入らない、そら左の方に足跡がある。これからずっと月桂樹の横の方に、――ああ、云わないこっちゃなかった、――」
彼がこう云う途端に、女の帛(きぬ)を裂くような悲叫(さけび)! 恐怖のために狂乱してしまった咽喉から絞り出た、血も吐くような女の悲叫(さけび)が、私たちの前方の籔のかげから聞こえて来た。それと共にその悲叫(さけび)は、最も高く絞り上げられたと思う中(うち)に、急に咽喉でも締められたのか、窒息するように止まってしまった。
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