伝統的な美意識を近代文明と調和させ、現代に花咲かせたものを「幕の内弁当の美意識」と言ったのが、栄久安憲司である。

幕の内弁当には、ご飯と煮物、焼き物、漬物などさまざまなおかずが少しずつ彩りよく入っている。一つ一つの素材はごくあり触れたものであるが、それらが全体としては調和のとれた美として、狭い弁当箱の中に美しくきっちり納まっている。「わび」と「さび」そして「いき」の精神に立ち、見た目の美しさ、味という機能でも優れている。

この幕の内弁当の美意識は、世界の市場で人気のあるコンパクトにパッケージされ、デザインも優れた家庭電気製品、オートバイ、自動車などの製品に生かされ、さらには日本がリードしている大規模集積回路の極微小の世界の根底にも存在しているといってよい。