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魔幻小说:《伯爵与妖精》卷一 第一章1.1

时间:2011-08-31 14:37:15  来源:可可日语  作者:ookami

「あの男につかまって、監禁《かんきん》されていた。どうにか逃げ出し、こ

の部屋に身をひそめたんだ。そうしたら奴が、ここへきみを連れてきた。奴は

僕が逃げたことにじき気づくだろう。でもきみだって危険なんだ。だから力を

貸してほしい」

「わけがわからないわ」

「時間がないんだ。出航までに抜け出さないと。あとでゆっくり説明するから

、信じてくれとしか言えない」

ようやく解放され、リディアは彼に向き直った。

 ひょろりと細身の青年だった。乱れた褐色《かっしょく》の髪に無精《ぶし

ょう》ひげ、貧相な服装に惑わされないようよく見れば、顔つきは若く、二十

歳そこそこくらいなのではないかと思われる。

 いかにもだらしのない格好なのに、不思議と品のある顔立ちをしている。そ

の力強い視線は堂々とリディアを見据え、あまいような灰紫《アッシュモーヴ

》の瞳で困惑させた。

「またつかまったら、あなたはどうなるの?」

「殺される」

 言葉よりも、彼の両手首に血をにじませた、縄《なわ》の痕《あと》が恐ろ

しかった。首筋にも、ナイフを突きつけられたかのような、細い傷がいくつも

ある。

「この部屋は通路の突き当たりにあるだろう? ハスクリー、ってのは偽名だ

ろうが、あの男の部屋の前を通らないと、どこにも行けない。そうやって、き

みをここに軟禁《なんきん》するつもりだ。外へ出れば、あの男と一緒にいる

弟たちが君のことを見張る。奴らは八人兄弟で、今船にいるのは六人、どいつ

も体格のいい、力技が得意な連中だ。ハスクリーはその長男、団結して悪事を

働いているんだ」

 彼は足音を忍ばせ、ドアの方へ歩み寄った。

「そっと抜け出そうとしても、ドアに仕掛けた糸が引かれて、きみがドアを開

けたことはすぐ、隣の部屋にわかるようになっている。きみのことはおそらく

、眠らせるかどうにかして、適当な港でおろすつもりだろう」

 よくよく見れば、ドアノブのところに細く透明な糸がきらりと光った。

 それでじゅうぶんだ。父に頼まれた助手が、こんなことをする必要はない。

 リディアは腕を組み、青年の前に立った。

「で、どうすればここから逃げ出せるの?」


 ハスクリーのいる部屋の前で、リディアは大きく息を吸いこんだ。

 自室のドアを開けたからには、ハスクリーはすでに、リディアが廊下に出た

ことを知っている。戸を一枚|隔《へだ》てたすぐそこで、聞き耳を立ててい

るのかもしれない。

 そして彼女は、目の前のドアをたたく。

 ややあって、ハスクリーが顔を出した。

「おや、どうかしましたか、お嬢《じょう》さん」

「じつは、部屋の中で奇妙な音がするんです。クローゼットの中に何かいるみ

たいな……。気味が悪いので、見ていただけません?」

 顔色が微妙に変わった。ハスクリーはあわてた様子で、部屋の中にいる仲間

に声をかける。

「おい、隣の部屋だ。間違いない」

 何が間違いないのか、リディアに不審《ふしん》がられるかもしれないと気

にする余裕はなかったのだろう。

「お嬢さん、変質者かもしれません。危険ですからここでじっとしていてくだ

さいね」

 部屋の中には、ハスクリーを含めて、たしかに六人の屈強《くっきょう》そ

うな男がいた。

 彼らがそろって、慎重にリディアの部屋の中へ消えるのを見計らって、廊下

の柱に身を隠していた青年が、ドアの前をすり抜けた。

「行こう」

 いかにも自然に手を取って、駆け出す彼に、リディアもついていく。

「ニコ、ついてきてる?」

 姿を消しているニコの、しっぽだけが一瞬見えた。

「おい、逃げたぞ!」

 声が聞こえる。

 早々と気づかれてしまい、リディアの手を引いている青年の舌打ちが聞こえ

た。けれども彼は、そのまま階段を駆け下りる。

 そのとき、デッキの柵《さく》を乗りこえ、追っ手がひとりこちらへ飛びお

りた。

 ハンドバッグをつかまれ、リディアは悲鳴をあげた。

 青年が回り込み、男の足元を払う。

 リディアのバッグをつかんだまま、男は手すりにぶつかり、勢いあまってそ

のまま海へ落ちてしまう。


「あたしのバッグ……」

「振り返っちゃだめだ」

 再び、腕を引かれるまま、リディアは走るしかない。

 デッキを駆け抜け、また階段を下り、橋げたを通過してようやく船外へ出る

が、それでも立ち止まることなく波止場《はとば》の人込みをかきわけながら

彼は急ぐ。

 息切れして苦しくなりながら、必死だったリディアは、ただついていくだけ

だった。

 ようやく立ち止まったときには、ふたりして床に倒れ込んだ。

 荒い呼吸をくり返し、激しく打つ鼓動《こどう》をなだめ、やがて落ち着い

てきたリディアは、自分の伏せている床が、ずいぶんふかふかとしていること

に気がついた。

 なんてやわらかい絨毯《じゅうたん》。そう思いながら頭を動かし、ゆっく

りと見まわせば、そこは貴族の館かというような、豪華な家具や調度品に囲ま

れた室内だった。

「……ここ、どこ?」

「船だよ」

 すぐそばで、まだ仰向けに倒れたままの青年が答える。

 窓の外は海だ。波止場も見える。たしかにここは船の中で、さっきとは別の

客船のようだが、こんな特別室に無断で入り込んだりしたら叱られて
しまうのではないか。「ねえ、ちょっと」

「悪いけど、しばらく休ませてくれ。……体力の限界……」

 そのまま彼は目を閉じると、もうリディアがいくら声をかけても、ネジがき

れたみたいに反応しなくなった。

 しかたなく、リディアはひとり立ちあがる。

 なんとなく、部屋の中を確かめる。広めのリビングに、寝室が三つ、それか

ら書斎、洗面室にシャワーもついている。

「すごい……、こんな船室もあるのね」

 部屋の外へ出なかったのは、乗務員に見つかりたくないのと、もしかしたら

ハスクリーたちが追ってきているかもしれないと気になったからだった。

「胡散臭《うさんくさ》いよなあ」

 ニコの声だ。壁を飾る大きな絵を眺めながら、ヒゲをひくつかせる。

「そいつ何者だ?」

「さあ、でもあたしたち、おかげでだまされずにすんだわ」

「どうだかねえ。そいつにだまされてんのかもよ」

 そうなのだろうか。リディアは少し不安になる。けれど、ハスクリーと名乗

った男が不審者《ふしんしゃ》だったのはたしかだ。大学で働いている助手の

船室に、弟だとしても屈強な用心棒ふうの男が何人もいる必要は、どう考えて

も思い浮かばない。

「彼の話を聞くしかないわね」

 革張りのソファに腰をおろす。シルクのクッションに身体をもたせかけると

、あまりに心地よくて、リディアはついうとうととした。

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