《伯爵与妖精》卷二第二章魔兽的妖精之卵2.4
帽子とショールを取ってくると、リディアは、エドガーが待たせていた馬車に乗り込んだ。
レイヴンを連れてきていたらしく、馬車の脇(わき)に彼は、直立不動で待っていた。
走り出した馬車の中、隣からじっと注がれるエドガーの視線をリディアは感じ続けている。
居心地が悪くてしょうがない。
「……何なの? どうしてそんなに見るの?」
「考えてみれば僕は、きみがあんなふうに笑うなんて知らなかった」
「は?」
「ラングレー氏から花をもらって、心からうれしそうだったよ。僕が花を贈ったときは、きみは少しもよろこんでくれなかったのに」
「そういうわけじゃないけど、あなたの場合、心がこもってないっていうか……」
言ってしまってから、ひとこと多かったかしらと思う。エドガーとは出会いからしてうさんくさい状況だったからか、ついきつい調子になってしまう。けれど心がこもってないなんて、決めつけるのは悪いことかもしれない。
「そう。女の子はどうでもいい男からの豪華な花束よりも、好きな男が摘(つ)んでくれた道ばたの花の方がうれしいんだよね」
そんなふうに落ちこんでみせるのは、いつもの彼の手だとわかっているのに、結局リディアは悪いことをしたように感じてしまう。
いいかげん学習するべきだと思うのに、ふだん華やかで自信たっぷりなエドガーだけに、戸惑わされるのだ。
「ラングレーさんは近くに住んでるから、よく家へ来るってだけよ」
「近く?」
「二軒先の下宿屋」
「レイヴン、聞いたか?」
はい、とエドガーの向かいに座っている少年が答えた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。どういうつもりよ!」
なにしろレイヴンは、エドガーにとってじゃまな者は容赦(ようしゃ)なく殺すと公言しているのだ。
「ちょっとした嫉妬(しっと)」
「じゃないわよ、そ、そんな簡単に……」
うろたえるリディアを眺め、エドガーはくすりと笑った。
「冗談だよ、レイヴン」
「わかっております」
「今のところはね」
やめてよ、とリディアは脱力する。
「何が嫉妬よ、あたしのこといつも、からかって振り回して、おもしろがってるだけじゃない。それにラングレーさんは、教授の娘に気を遣(つか)ってるだけ。あたしのことよく知らないから、ふつうの少女みたいに扱ってくれてるのよ」
「ちっとも自分の魅力をわかってないんだね」
「自分のことくらいわかってるわ。これまでずっと変わり者って言われてきたのよ」
「きみの目は、不思議な世界を映す。耳は風のざわめきにさえ言葉を聞き分ける。そうだと知ったら誰だって臆病(おくびょう)になるだろう。だってね、好きな女の子に自分の何もかも、無様(ぶざま)な部分まで見透かされてしまうかもしれないなんて怖いからさ」
本当に、口がうまいんだから。
乗せられるものかと、リディアは切り返した。
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