《伯爵与妖精》卷二第二章魔兽的妖精之卵2.5
ほどなく馬車は、にぎやかな装飾と音楽に包まれた、クリモーンガーデンズへと到着した。
馬車を降りて門をくぐれば、広い敷地のあちこちで、催し物が繰り広げられている。ロンドン一の娯楽の殿堂は、リディアにははじめて見るほどの人込みだ。どちらを向いても人だらけ。いったいどこから、こんなにたくさんの人が集まってくるのだろう。
サーカスのテントの前を通り抜け、中国(チヤイナ)のオーケストラに耳を傾ければ、ピエロの綱渡りが大歩道で始まる。
はじめて見るものばかりで、目を奪われそうになるが、遊びに来たわけではないとリディアは気を引き締めた。
「どこへ行きたい? 象の曲芸なんておもしろいと思うけど」
「は? 妖精卵(ようせいたまご)は?」
「あとでいいじゃないか。せっかく来たんだし、楽しんでいこう」
かまわず彼女を引っぱっていく。
「ちょっとエドガー、妖精卵が売ってるって本当なの? うそなんだったら帰るわよ。休日まであなたのわがままにつきあう気なんてないから」
「手厳しいな。わかったよ。でも用が済んだら、少しでいいから時間をくれ。休日だからこそ、義務感抜きで僕と過ごしてほしいんだ」
そんなに、休日までもリディアのことを監視しておきたいのだろうか。
まったく、エドガーの考えていることはわからない。
「義務感がなかったら、つきあう必要ないと思うわ」
「どうして? 楽しんでもらえるはずだと思ってるんだけど」
「楽しみたいなら別の女の子を誘えば? あなたにコロッとだまされる子なんて、いくらでもいるでしょ。仏頂面(ぶっちょうづら)ばかりのあたしより、よろこんでついてくる女の子の方がいいじゃない」
「きみの仏頂面も嫌いじゃないよ。笑ってくれるともっとうれしいけどね」
「だから、そうやってからかうのはやめてって言ってるでしょ」
「あのねえリディア、からかってるとか秘密を知ってるのはきみだけだからとか、否定的に考えすぎだ。きみを気に入っていて、一緒に過ごしたいと思うのは、不自然なことかい? 遊びに誘わなきゃお互いを知る機会がないし、ぜんぶ、正直な今の気持ちだよ。出会って間がないのに、いきなり真剣だとかきみだけだとか言える段階じゃないだけで、もっときみのことを知りたいし、僕を知ってほしいから、こうして誘うんだ」
本当だろうか?
ああ、こんなふうにすぐだまされそうになるから、おもしろがられるのね。
そう思いながらもリディアは頷(うなず)く。
「……わかったわ。少しくらいなら、遊んでいってもいい」
「ありがとう。少しずつ愛をはぐくもう」
まじめかと思えば茶化(ちゃか)される。リディアは苦笑する。
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